2021年、世界耐久選手権にワークス体制で臨んだ『ヨシムラSERT Motul』は参戦初年度にして世界チャンピオンに輝いた。
その報告と感謝の意を込めた祝勝会が12月22日神奈川県厚木市のレンブラントホテルで開催された。当日は約200人もの出席者が訪れ世界チャンピオン獲得を祝った。会場のテーブルは各席アクリル板で仕切られ、ワクチン接種証明の事前提出、現場での抗原検査が実施され、万全の感染症対策を講じての開催となった。出席者の中になんと長瀬智也さんが。サプライズプレゼンターとして登場、会場がどよめいた。
先ずは加藤陽平チームディレクターが挨拶。ステージに登壇したスタッフ12名全員を紹介。このチームで世界を相手に闘った。「参戦初年度にチャンピオン獲得という最高の結果を残せました。しかし我々だけで成し遂げられたものではなく、ここにご出席のスポンサーの皆様、無理な注文を聞いて下さっている協力会社の皆様、サーキットの内外でアドバイスをいただいているヨシムラOBの方々、そして、世界中の熱いヨシムラファンの方々の応援があったからこそだと思っています。本当にありがとうございました。」
ヨシムラは言わずと知れた名門チーム。創業者の“ポップ吉村”こと吉村秀雄氏率いるプライベートチームが1978年鈴鹿8時間耐久レース第1回大会でメーカー系チームを抑えて優勝、度肝を抜いた。今回タッグを組んだSERT(SUZUKI ENDURANCE RACING TEAM)も耐久レースの名門。過去に16度の世界チャンピオンに輝く。今回は日仏混成チームでEWCに参戦。日本でも有名なルマン24時間耐久レース、ボルドール24時間耐久で優勝、参戦初年度にしてシリーズチャンピオンを獲得した。
参戦ライダーのシルバン・ギュントーリ、グレッグ・ブラック、ザビエル・シメオンはコロナ禍において来日が難しく残念ながらビデオメッセージでの参加となった。スズキ株式会社スズキレーシングカンパニー長 近藤豊様、スズキレーシングカンパニー レース車両開発グループ長 佐原伸一様からもお祝いのビデオメッセージが届く。
MOTUL Japan副社長 岡本崇様、株式会社デンソー 点火システム技術部長 度会武宏様から祝辞をいただいた後に代表取締役社長村不二雄氏がニコラス・ロディル・デル・バレ・ゴールドメダルを受賞したことが報告された。この賞は二輪レース活動に多大な貢献をした人物、企業の経営者に与えられる名誉ある賞。この受賞を不二雄氏は大層喜んでいた。
「ファクトリーチームとしての参戦初年度にチャンピオン獲得できたことは正直驚いています。ですが単なるまぐれではないとも感じています。ライダーの的確な判断、メカニックの冷静な作業、そして全員のチームワークによるものだと思っています。1978年ボルドール24時間、翌年のルマン24時間に参戦しましたが結果はリタイア。1988年デイトナ200マイルでケビン・シュワンツが優勝。SERTへルマン24時間耐久仕様のエンジン提供とメンテナンスを受託しました。結果は2位でしたがその時に感じたことは、欧州は二輪耐久レース及びモータースポーツ全体が高い社会的価値を認められているということです。そのような中でFIMから今までの功績が認められ、ゴールドメダルを授与されたことは喜びの極みです。」
「また、この章は毎年授与されると思っていたのですが「該当者がいる時のみの受賞」と聞いて自分の耳を疑いました。と同時にこの上ない幸せを感じました。ありがとうございました。」
ここで誰もが驚くハプニング(?)が起きた。バイク好きで有名な長瀬智也さんがサプライズゲストとしてお祝いに駆けつけた。登壇するや否や会場はどよめきが起きる。長瀬さんから加藤ディレクター、不二雄社長へ花束贈呈。スピーチを依頼される。
「なぜ(自分が)ここにいるのか?と、不思議に思うでしょう。みなさんすごい勢いでスマホを取り出しましたね(笑)ありがとうございます。」といきなり笑いを取る。
「ヨシムラさんとはひょんなきっかけで出会いました。その話をすると時間が足りなくなるので割愛します。僕は神奈川県に生まれ、目を開けて間もなくレースの世界が目の前にありました。オヤジがずっと筑波でレースをしていました。それから43年間、乗り物を愛して、どんな時代も、どんなときも、すぐ近くに「ヨシムラ」というフレーズがありました。年を重ねていくごとに日本のモータースポーツのスピリッツにも魅了されていきました。今となってはヨシムラの応援団として心の中で応援させていただいております。僕はずっとエンターテイメントの仕事をしてきました。その世界を抜けて進化するべく今もなお次の目標に向かって走り続けています。」
「僕が人生の最後の最後までに自分の中でやらなければいけないと思っていることが、いくつかあります。その中のひとつが「この日本でレースを盛り上げること」。それは僕の中で大きな問題としてこれから生きていく中で向き合っていきたいと思います。」
「EWCワールドチャンピオンは、今の日本の少しぬるま湯につかった気持ちにカツを入れてくれたんじゃないかと個人的に思っております。ヨシムラさんのように速く走ることだけを考えるシンプルな生き方に、その背中を見続けてこれからも応援し続けていきたいと思っております。不二雄さん、陽平さん、これからも僕たちにレースで元気を与えてくれたら嬉しいと思っています。僕らもヨシムラが元気になるように、いつまでも応援していきます。今後とも日本でレースを盛り上げてお互いに楽しい人生を歩んでいけたらな、と思っています。」
と、日本のバイクレースを盛り上げたい、と切に思っていることを告白。とても心強いサポーターが現れた。最後に「このような場所に参列してお話するのは緊張しています。でも、この緊張も思い出にしまって、明日からまた精進したいと思います」とコメント。長瀬さんがサーキットに姿を見せてくれることを願いたい。
サプライズの興奮さめやらぬ中、いよいよ乾杯。ご発声はMOTUL Japan岡本副社長。美味しい料理に舌鼓を打ちながらの歓談タイム。
ここで今年のマシン開発に多大なる貢献を果たした渡辺一樹と加藤ディレクターのトークショー。ヨシムラが九州福岡に構えていた黎明期に活躍した『雁ノ巣会』九州タイミングアソシエーションの太田祐三氏、倉留福生氏による当時の懐かしいエピソードを披露。さらに、ヨシムラに初めて全日本ロードレースチャンピオンをもたらした辻本聡氏、2007年鈴鹿8耐優勝した加賀山就臣、2009年鈴鹿8耐優勝の酒井大作の3人によるトークショーステージが繰り広げられた。
今シーズン、ヨシムラの開発ライダー、第4ライダーとして活動した渡辺一樹。レーシングライダーとしての実力、開発ライダーとしての能力の高さは折り紙付きで加藤ディレクターも認めるところ。そしてもちろん、走っても速い。今年の全日本ロードレース開幕戦もてぎ。絶対王者中須賀克行を破ってポールポジション獲得。これには不二雄社長も大喜び。決勝レース1では3位表彰台、レース2では2位表彰台を獲得する。いずれも中須賀に僅差で迫る接近戦を演じマシンの速さとライダーとしてのポテンシャルの高さを見せつけた。
1985年ヨシムラに移籍したその年にチャンピオンを獲得、その翌年も連覇した辻本氏。ヨシムラの全盛期を築いた貢献者のひとり。近年はレーシングアドバイザーとてしてライダーをメンタル面からも支えていた。酒井も津田拓也も辻本氏の元でライダーとしての成長を果たした。今回、1986年全日本チャンピオンを獲得した時のチームウェアを持参。ヨシムラOBたちから懐かしの声が聞かれた。
一昨年は電撃トレードでヨシムラから全日本ロードレースに参戦して皆を驚かせた加賀山。ヨシムラの長い鈴鹿8耐の歴史の中で8回参戦。数々いるヨシムラライダーの中で最も鈴鹿8耐を走った回数が多いライダーだ。そのほとんどをトップ争いに絡んでいた。加賀山の熱い走りはファンを魅了し、今でも現役の彼の走りは注目されている。
2011年にSERTでシリーズチャンピオンに輝いた酒井。ヨシムラとSERT、二つのチームで優勝を経験している。ルマン24時間耐久ではエースライダーとして走行、しかしライダーチェンジするスティントが「通常は第1ライダー→第2ライダー→第3ライダー、と順番に走るけど、この時は1-2、1-3、1-2、と自分だけめちゃくちゃ多く走って明け方の走行時には悲しくも無いのに何故か涙が溢れて泣きながら走った」と笑いを交えながらエピソードを披露した。
あっという間に3時間近く経過。株式会社ブリヂストンモータースポーツ部長堀尾 直孝様より締めのご挨拶。「ヨシムラさんからサポートを頼まれるのは光栄であると同時に物凄いプレッシャーでした。前年度のチャンピオンがブリヂストンにスイッチしたら獲れなかったという事態は避けなければならなかったので。ヨシムラさんから求められる高い性能と耐久性に応えるべく全力でサポートしました。今年は日本からの声援でしたが、来年は是非、現地でチャンピオン獲得のお祝いを共有したいと思います」と来年のサポートも確約(?)。
ゆかりにある方々、スポンサー企業、協力企業などこれほど多くの出席者が訪れるのはヨシムラがいかにみんなから愛されているか、を象徴している。
不二雄社長は『ニコラス・ロディル・デル・バレ・ゴールドメダルの受賞は、創業者の秀雄から始まり、孫に当たる陽平の代まで一貫して続けてきた“ヨシムラジャパン”への贈呈』とコメント。
創業者ポップ吉村の時代から連綿と受け継がれるレーシングスピリット、これに誰もが惹かれる。
2021年12月。祝宴の最中であるが、気持ちは既に来年の準備に向かっている、と加藤ディレクター。来年はどんな闘いを魅せてくれるのか、世界中のヨシムラファンは楽しみに待っている。
Photo & text: Toshiyuki KOMAI