水野涼(DUCATI Team KAGAYAMA)が今季2勝目を挙げた。しかもヤマハワークスの2台に競り勝った!「今年のレースで一番充実していたし、楽しかったです」。クリーンで激しいバトルは場内を沸かせた。中須賀も岡本も「楽しいバトルでした」と口を揃える。
シリーズタイトル争いは中須賀と岡本が同ポイントで並び、明日のレース2で前でゴールした方に決まる。
ウィークに入ってから「勝つ」とコメントしていた水野。「有言実行」と言う言葉は優勝してから使う、と二人で決めていたので本日タイトルに起用することができた。
午前中に行われた公式予選は2分4秒台のバトルかと思いきや、最後に岡本裕生(YAMAHA FACTORY RACING TEAM 2)が3秒台に入れるハイレベルなタイム合戦となった。
3周目に岡本がいきなり2’04.738。このウィークで初めて見る4秒台。だが水野が黙っているわけがなく、すぐさま2’04.932と4秒台に入れる。さらに2’04.135までタイムを詰めてトップに立つ。驚いたのが、水野の背後にピタリとつけていた岩田悟(Team ATJ)が4秒台の2’04.513に入れてその時点で2番手に浮上する。引っ張られればタイムが出るわけではない。これは岩田の実力だ。
もがきながらも新しい走りのスタイルにチャレンジしている中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)も4秒台の2’04.768に入れる。
予選終盤、各車最後のアタック。ニュータイヤで出て行った野左根航汰(Astemo Honda Dream SI Racing)が2’04.186をマーク。そして終盤、岡本が驚きのタイムを叩き出す。2’03.856。これには場内騒然。岡本がポールポジションを獲得。
2番グリッド:水野、3番グリッド:野左根、4番グリッド:岩田、5番グリッド:中須賀の上位5台。
上位5台までが2分4秒台というハイレベルなタイム合戦であった。
迎えたレース1。ホールショットは岡本が奪い、野左根、岩田、中須賀の順に第1コーナーに侵入する。2コーナー立ち上がりで中須賀が岩田をパス、4番手に浮上する。シケイン進入で野左根が岡本のインを突いてトップに浮上してオープニングラップを制するが、ホームストレートで岡本がトップを奪い返す。
以下、水野、中須賀、岩田、渥美心(Yoshimura SERT Motul)、長島哲太(DUNLOP Racing Team with YAHAGI)、高橋巧(日本郵便Honda Dream TP)、名越哲平(SDG Honda Racing)、伊藤和樹(Honda Dream RT桜井ホンダ)の上位10台
岡本、野左根、水野、中須賀、岩田までの5台がトップグループを形成し、渥美・長島・高橋・名越のセカンドグループとの差を広げ始める。2周目のシケインで野左根のインを突いて岡本がトップを奪い返す。さらにホームストレートで水野が野左根をパスして2番手に浮上する。しかしここで中須賀が来る。2コーナーで野左根を料理するとその先のS字で水野を捉えて2番手に浮上!ヤマハのワン・ツーとなる。この時中須賀はなんと2’04.998と4秒台に入れていた。「(岡本)裕生との差が開いていたのでプッシュしただけです」と飄々としている。
このプッシュで岡本と1秒近く開いていた差を縮めて5周目にはアウトから仕掛けられるほど接近、テール・トゥ・ノーズのバトルとなる。そして6周目の1コーナーで岡本をパスしてトップに浮上する!
3番手水野、4番手野左根もこの2台から離されずに付いていく。「自分には持ちタイムがあるので3番手に落ちても焦りはありませんでした」と水野は落ち着いてレース展開を見守る。5番手の岩田が遅れ始めトップグループはこの4台となる。この4台のラップタイムペースは2分5秒台中盤から後半と信じられないペースで走行を続ける。昨年のレース1のファステストラップが2’05.968、今年は2’04.998と1秒も速い。当然アベレージタイムも1秒近く速くなっている。今年全日本のレベルが上がっている、と言われているがここにもその一端が見える。
6周目のバックストレート、岡本がトップを奪い返す。しかし8周目のホームストレートで中須賀が再び前に出る。チャンピオン争いをしている二人の抜きつ抜かれつのバトル。「中須賀さんは最終コーナーの立ち上がり加速が速いのでホームストレートで抜かれます」と岡本が言えば、「自分の課題はスプーン二つ目。ここが上手く曲がれずスピードに乗れないのでバックストレートで裕生に抜かれます」と中須賀。お互い速いところ・遅いところが違い、自分の得意とするところで勝負を仕掛ける。その言葉通り8周目のバックストレートで岡本が再びパスする。やはり岡本はスプーン立ち上がりの加速が速い。9周目の1コーナーで岡本がわずかに膨らんだ隙を突いて中須賀が再びトップ浮上。
岡本の方がアベレージが速いことを知っている中須賀は積極的に前に出て自分のペースに持ち込もうと考えている。しかし岡本はそうはさせない。この二人のガチバトルは見応えがある。今度は岡本が得意とするバックストレートで中須賀を処理すると再度トップに浮上する。
中須賀は決勝レースを使って自分の走り方を変えるチャレンジを行なっていた。「テストではなく本番でトライして成功するのが一番身につきます。このレース1ではかなり手応えがありました。“強いブレーキング”から“まっすぐに向きを変えて一気に加速する”のが自分の持ち味でここまで勝ってきましたが、それではタイムが出ないし勝てない、と最近痛感しています。だからスムーズなブレーキングからコーナリングスピードを上げて曲がることにトライしています」長年身体に染み付いてきたものを変えるのは容易ではない。だがそれを身につけた時中須賀はさらなる飛躍を遂げるだろう。
岡本は予選で2分3秒のスーパーラップを叩き出した後にセットを変えていた。
「自分のベストラップ2分5秒2でラップできれば前に出て後続を突き放せたと思うのですが、路面コンディションの変化(ST1000の後のラバー)を見越して予選の後にセットを変えました。それが上手くハマらなかった点は明日に向けての課題です」
岡本・中須賀の後方で様子を見ていた水野が動き出す。「自分には持ちタイムとトップスピードの速さでアドバンテージがあるので焦りはありませんでした。さらにタイヤをハード目の方向性をチョイスしたのでレース後半でもタイヤがタレない自信がありました」
「前半のラップタイムが2分5秒中盤でした。それはこのタイヤで想定していたタイムだったので、前に出て5秒前半まで持っていくのはリスキーでした。だから前に出るタイミングだけを考えていました。」
ここだ、と決めた11周目のホームストレート、中須賀のインを突いて2番手に浮上する。さらにストレートの速さを武器にスプーン立ち上がりで加速に乗せるとあっという間に岡本をパス、トップに浮上する!
「自分がチョイスしたタイヤはスプーンの立ち上がりが速いのでその分加速が乗ります。後半タレないこととスプーン立ち上がりの速さがこのタイヤを選んだ理由です」
ここから三つ巴のバトルが始まる。水野・岡本・中須賀は団子状態で各コーナーを回っていく。12周目のNIPPOコーナー、わずかに膨らんだ水野のインを突いてトップに浮上する。だが水野には最終セクションの速さがある。その通りスプーン立ち上がりで岡本の背後に付けるとバックストレートで一気にパス。トップを奪い返す。中須賀は3番手。
そして迎えたファイナルラップ、水野・岡本・中須賀の順に1コーナーに進入。逆バンクで中須賀が岡本のインに鼻先を入れるが岡本は抑える。しかしNIPPOコーナー上りでわずかに膨らむとそれを逃さない中須賀がすり抜けて2番手に浮上、水野を追う。
「ここで来るか?」と言うスプーン進入で水野を刺した中須賀、トップで鬼門のスプーン出口に向かう。やはり水野が来る。中須賀の背後にピタリと付けると一気に加速、3ワイドでバックストレートから130Rに向かう。岡本がアウト側に振って中須賀をパス、水野・岡本・中須賀の順にシケインへ進入するが、岡本が外に膨らみ中須賀と交錯、ほぼ同時に最終コーナーを駆け降りる。
水野がトップチェッカー!8月のもてぎ以来今季2勝目を挙げる。2位は抑え切った岡本、3位に中須賀。
これで中須賀211ポイント、岡本211ポイント。なんと同ポイントで明日のレース2を迎える。どちらか前でゴールした方がシリーズチャンピオン。こんな熾烈なタイトル争いはJSBクラスでは初ではないだろうか。
明日は雨が降るのか降らないのか、、、できればドライで最後のレースを迎えたい。
全日本ロードレース第8戦鈴鹿 決勝レース1 上位10位の結果は以下の通り
1:#3 水野 涼 DUCATI Team KAGAYAMA
2:#2 岡本 裕生 YAMAHA FACTORY RACING TEAM 2
3:#1 中須賀 克行 YAMAHA FACTORY RACING TEAM
4:#32 野左根 航汰 Astemo HondaDream SI Racing
5:#10 岩田 悟 Team ATJ
6:#33 高橋 巧 JAPAN POST HondaDream TP
7:#9 伊藤 和輝 Honda Dream RT SAKURAI HONDA
8:#13 渥美 心 YOSHIMURA SERT MOTUL
9:#4 名越 哲平 SDG Honda Racing
10:#20 日浦 大治朗 Honda Dream RT SAKURAI HONDA
Photo & text:Toshiyuki KOMAI