オートバイ・自動車のキャブレターや燃料噴射装置などを製造する大手メーカー:株式会社ミクニが運営するレーシングチーム「ミクニ テリー&カリー」の2018年参戦体制発表会が東京都千代田区・ミクニ本社で開催された。当日は50名を超す参加者が来場する大規模な発表会であった。
「毎年この発表会は期待と不安が入り交じって迎えますが、今年は期待しかありません」と開口一番にチーム代表の待島敦久氏が語った。「今年は全日本ロードレース参戦の集大成の年としてズバリ、チャンピオン獲得を狙います。それほどの布陣で臨みます」とその自信をのぞかせる。
今年はライダーを一新した。2015年2016年とMotoGP Moto3クラスに参戦、2017年はスペイン選手権(CEV)Moto2クラスに参戦していた尾野弘樹をJ-GP2クラス起用する。村瀬健琉(むらせたける)はJP250クラスにスイッチして参戦。そして、強力な助っ人として武田雄一をアドバイザーに迎え入れた。
「ミクニ テリー&カリー」は一貫して若手ライダー育成を目的としている。チーム代表の待島敦久氏、チーム監督の高橋淳一郎氏をはじめスタッフ全員がミクニ社員の社内チームである。1997年、高橋氏が「レースをやりたいから」という理由で全日本ロードレース参戦を開始、今年参戦21年目を迎える。J-GP2クラスには2011年から参戦を開始、星野知也、津田一磨、長尾健吾を輩出した。
2007年全日本ロードレースGP125ccクラスにフル参戦を開始、2008年にはシリーズランキング3位を獲得。2010年からは参戦の舞台を世界に移し、2013年にはアジア ロードレース選手権HONDA CBR250アジア・ドリーム・カップでシリーズチャンピオンを獲得。2017年、スペイン選手権(CEV)で初めて600ccマシンを駆るMoto2クラスに参戦、シリーズランキング8位を獲得。そして今年、J-GP2クラスにフル参戦する。
「長年サポートいただいたホンダさまからスイッチするのはとても悩みましたが、今年、自分自身の最高のパフォーマンスを発揮できるのがこのチーム、全日本ロードレース選手権だと確信したので「ミクニ テリー&カリー」への移籍を決意しました。今年の目標は当然全日本チャンピオン獲得ですが、自分自身まだ世界への挑戦を諦めていませんので、”世界グランプリを走るに値するライダーだ”とみなさまに評価されるようなレースを魅せたいと思います。全日本選手権は8年ぶりの復帰、そして600ccで全日本を走るのは初めての挑戦になりますが、チームスタッフと一丸になって良い仕事を行い、最終戦鈴鹿で今日ここにお集まりのみなさまと最高の結果を喜び合えるように頑張っていきます。みなさまの応援を何卒よろしくお願いいたします。」
2005年のMotoGPイタリアグランプリで食事をした際に「将来はウチ(ミクニ テリー&カリー)で走りなよ」と冗談で言ったら今年本当にそうなってしまいました」と高橋監督。昨年までCEVを走らせていたNTSの生田目將弘社長も快く尾野を送り出しチーム移籍が実現した。NTSは今年MotoGP世界グランプリMoto2クラスに車体提供メーカーとして参戦、CEVへの参戦を諦めざるを得ない状況となり、そこにミクニ テリー&カリーへの移籍の話が舞い込んできて快諾したそうである。さらに、「今年のMotoGP日本グランプリMoto2クラスへのワイルドカード参戦も視野に入れている」との嬉しいコメントもあった。
この二人、似ているのでサーキットでよく間違われるようである。
「昨年末にミクニ テリー&カリーさんへの参戦が決定しました。CEVを走れなくなり、ただ単純に世界から全日本へ移籍するだけならレース界から引退するつもりでした。自分の目標はあくまでも世界で走ることです。ミクニ テリー&カリーさんは自分の気持ちを十分に理解してくれて、ここなら世界への挑戦の道が残されている、また生田目さんもワイルドカード参戦のチャンスをくださりました。だからモチベーションを下げることなく思いっきり全日本ロードレースを走ることができます。
今年(チャンピオン獲得という)プレッシャーを感じていますが、世界で走ってきた経験は自分にとって自信のひとつになっていますので、気負うことなく自分の走りを魅せていければと思います」
村瀬健琉(むらせたける)1998年2月2日生まれ 19歳
2015年加賀山就臣が立ち上げた「Suzuki Asian Challenge」にフル参戦、ランキング3位を獲得。2016年から「ミクニ テリー&カリー」に所属、ヘルパーとして全日本ロードレースに帯同する傍ら、ピレリ600チャレンジカップに参戦、2017年にはJ-GP2クラスに参戦。年間22回という転倒を喫しシリーズランキング17位。今年はJP250クラスにスイッチして参戦する。
「昨年は22回の転倒というとんでもない記録を作りご迷惑をおかけしました。去年取り組めなかった部分がかなりあるので今年はもう一度基本に立ち返ってJP250クラスを走り、ライダーとして、一人の人間として成長できるように基礎をキッチリと学び直したいと思います。転倒の多さしか印象に無いかもしれませんが、昨年の後半にはタイムも上がってきたので、そのスキルをJP250クラスにも活かして勝てるライダーになれるように努力していきます。参戦するからにはチャンピオン獲得を狙いたいと思います。みなさん応援をよろしくお願いします。」
6年間Team KAGAYAMAでチームを支え、一昨年には浦本修充をJ-GP2クラスチャンピオンに育て上げた武田雄一がチームのアドバイザーとして就任した。ライダーの気持ちを十分に理解し、的確なアドバイスを出せる武田の加入はチームにとってとても心強いことであろう。
「6年間Team KAGAYAMAで学んできたことがたくさんあります。ライダーとしてレース界にいましたが、ライダーを支える立場としても長くこのレース界にいますのでライダーの気持ちを理解できる人間がチームの中にいれば心強いのではないかと思います。チャンピオンを獲るにはチームがひとつにならなくては無理なのでその部分で少しでもお役に立てればと思います。」
「このチームは社員チームなので本業の仕事を行いながらの参戦。本気でチャンピオンを獲ろうと思ったらスキルが足りない。レースの世界を知り尽くし、勝つためにやるべきことをしっかりと指摘してもらえるプロフェッショナルが必要」と高橋監督は武田起用の理由を説明する。
来賓として来場していたTeam KAGAYAMAの加賀山就臣代表からひとことご挨拶。
「自分がチームを立ち上げて7年、ミクニさんの21年に比べればまだまだ歴史は浅いのですが、ライダーとして30年近く走ってきた経験、チームオーナーとしての7年間の中で経験してきたことを、ミクニさんのライダー二人に伝えて自分なりに協力できればと思います。特にJ-GP2クラスでは2年前にチャンピオンを輩出することができたので情報共有できる部分は多くあると思います。」
余談であるが昨年、ある記録が村瀬に抜かれるのではないかとヒヤヒヤしていたそうである。それは年間の転倒記録。加賀山は1995 年に年間転倒24回という記録があるらしい。しかしその記録は塗り替えられることなく村瀬の転倒は22回であった。「転倒を恐れず果敢に攻める走りは、大物ライダー、レジェンドライダーに通ずるものがあると思うので今年JP250クラスでキッチリ基礎を学びながら将来の速いライダーを目指して欲しい」とエールを送っていた。
「ミクニ テリー&カリー」と言うチームは、会社で各々の日常業務をしながらレース活動を行う並大抵のことではないが、みんなオートバイが好き、レースが好き、でやっていると、全員の満足げな表情が印象的であった。
Photo & text : Toshiyuki KOMAI