言わずもがな鈴鹿8耐はチームで走る競技である。YAMAHA FACTORY RACING TEAMの結束力と安定感はずば抜けて高い。特筆すべきはライダー3人の一体感である。その中心にいるのが絶対王者:中須賀克行だ。
昨年、その中須賀がケガで決勝レースを欠場する緊急事態となった。しかしアレックス・ローズとマイケル・ファンデル・マークは「オレ達がナカスガを表彰台のテッペンに連れていく」と2人で8時間を走り切り、約束通り優勝、V4と言う偉業を達成してV5への道筋を残した。
満を持して迎えた今年の鈴鹿8耐。しかし約2ヶ月前のWSBK(ワールドスーパーバイク)ミサノでマイケルが転倒、右手首骨折の重傷を負う。鈴鹿8耐出場も危ぶまれた。
「昨年、自分がケガをして出場できなかったときにマイケルとアレックスが頑張ってくれた。もしも間に合わなかったときは自分が負担するところは負担しようと決めました。」
と、マイケルの参戦を信じる一方、万が一の時の為の準備を決意する。
マイケルは事前テストも参加できず3人揃って走れたのはレースウィークに入ってから。マシンのポジションはマイケルに合わせた。身長が高いマイケルは中須賀やアレックスのポジションでは窮屈。その負担を少しでも軽減させるためだ。レースウィークに入ってからマイケルの走りは日に日に良くなっていく。そして決勝レースが一番良い走りだった。84周目にはWSBKで闘っているレオン・ハスラムをパスする場面もあった。
中須賀、アレックス、マイケル、不動のオーダー。チームの一体感は鈴鹿8耐チーム随一と言って良いだろう。そして何よりも鈴鹿8耐の勝ち方を知っている。これは大きなアドバンテージだ。他方、ホンダワークス、カワサキワークスのマシンの前では2015年にデビューしたYZF R-1はさすがにそのアドバンテージを築けなくなってきた。
決勝レース、3人は自分のパートをキッチリとこなして走った。しかしトップに立てたのは第1スティントの終盤と第2スティントの16周。ラップタイムペースが遅いわけではないがじわりじわりトップとの差が開いていく。
その要因のひとつがピットストップタイムだ。8時間トータルのピットストップのタイムをみると、ホンダは4分59秒057でダントツ。カワサキは5分9秒538、対するヤマハは5分34秒012。ホンダからは約35秒、カワサキからは約25秒時間がかかっていた。これが大きく響いた。ゴール後の優勝したカワサキと2位ヤマハのタイム差はわずか18秒720。。。
「ライダーひとりひとりのポテンシャルは負けていないと思っていますが、ピット作業を含めたチーム全体トータルのパッケージでは負けていたと認めざるを得ない。最後のスティントで高橋選手の連続走行でホンダを抜くことができたけど、普通に走っていたら自分たちは3位だったと思います。そう言う意味ではカワサキ、ホンダと力の差はあったのかな、と思います。」
と中須賀はトータルの戦力の差を認める。
しかし「今あるパッケージの中でライダーも、チームも、スタッフも全てが100%の力を出し切った結果が2位。そう言う意味では今年の鈴鹿8耐には満足しています。」と言う。
「ピットストップで約30秒も多かった、これは明確な課題。来年、その課題を克服すればチームはさらに上にいけるはず。」
負けたからこそ見えた課題。中須賀は「もしも今年勝っていたら課題が見えなかったかもしれない」と言う。過去4年間勝ってきた。しかし自分たちより力のあるチームが出てきた。彼らを追い越すにはここで止まってはいけない。さらに上をいく準備をしなくてはならない。それを気付かせてくれた鈴鹿8耐だった、と言う。
このチームの3人は本当に仲が良い。但し単なる仲良しではない。相互理解、信頼、尊敬があるが故の一体感である。
「意識して3人仲良くしているつもりはないです。鈴鹿8耐を離れれば「一人のライダーとして」お互いにライバル。一台のマシンを3人で乗っているのでお互いのタイムは気になるし、乗り方も気になる。だけど3人が3人をお互いにリスペクトし合っている。自分にないところを持っているライダーを認める、信頼する。それらは他のチームにはないところだと思います。」
面白いエピソードがある。
「マイケルがケガをした後、妻のところに「鈴鹿には絶対に間に合わせるから」とメールが来ました。自分はLINEもインスタも何もやっていないので(笑)」そう、中須賀はスマホもSNSもやらないのだ。
アレックスも「オレ達は日本まで走りに来るけどナカスガは一度も(WSBKに)来たことがない」と言うと「いつも観てるよ、ネットで」と切り返す。
お互いに理解し合い、信頼しているから、いざと言うとき、何があっても対応できる力はある。そこが鈴鹿8耐のために急ごしらえしたチームとは違う強みだと言う。
中須賀の今の目標は全日本ロードレースチャンピオンの死守。今年、ライバルの高橋巧が手がつけられないほど速い。セパンテストで、さらに上を目指すために一度剛性バランスを崩して改良を加えていった。しかし蓋を開けてみたら難しいバイクになっていた。
「サーキットによって相性が違うようでは完璧なマシンとは言えない。昨年までのマシンはどのサーキットでも速かった。でもだからと言ってそこに戻るつもりはありません。HRCの上を行くマシンを造らなければ勝てないし、レースをやっている意味が無いので。」
「厳しい闘いになるけど楽しみでもあります。今の結果は面白くないけど、どうやって相手を倒してやろうかと考えているときが楽しい。辛いけど勝てたときの喜びは替え難いものがあります。」
と相変わらず中須賀の勝利に対するストイックさは変わらない。何故勝てないのか、どうやったら勝てるのか、そのために自らを追い込み、愚直なまでに走り込む。中須賀克行はとそう言うオトコ。全日本ロードレース後半戦の走りに注目したい。
photo & text : Toshiyuki KOMAI