運命のレース2。中須賀克行、逆転で9回目のシリーズチャンピオン獲得! 高橋巧、レース2をぶっちぎりの独走で優勝。
泣いても笑っても今シーズン最後のレース2。レース1の悪夢を払拭するぶっちぎりの独走で高橋巧(Team HRC)が優勝。中須賀克行は(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)2位フィニッシュで逆転シリーズチャンピオンを獲得した。2年連続、9回目の快挙である。中須賀の鈴鹿2&4でのノーポイントレースはほぼ絶望的と思われていたが、シーズン後半の巻き返しで11ポイント差を跳ね返してのチャンピオン獲得。高橋巧はわずか6ポイント差でチャンピオンを逃した。
追う立場から追われる立場になった中須賀。「過去に1回失敗していることもあり、チャンピオンがどれだけ大事かという重みを知っている。回数を重ねれば重ねるほどその重みが増してくる」「レース1が終わってから一転して守りに入ることになり、今までにないパターンだったのでものすごく緊張した」と言う。レース1の記者会見で言葉少なかったのはそのせいかもしれない。
15時15分、運命のレース2がスタートした。ホールショットは高橋巧が奪う。水野涼(MuSASHi RT HARC-PRO. Honda)、野左根航汰(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)、中須賀、秋吉耕佑(au・テルルMotoUP RT)、渡辺一樹(ヨシムラスズキMOTULレーシング)の順に1コーナーへ進入する。2コーナーのイン側から中須賀が野佐根をかわし、秋吉もその先の3コーナーで野佐根をかわす。さらに秋吉はS字でアウト側から中須賀に襲いかかり、水野までもパスして一気に2番手に浮上する。オープニングラップは高橋が制し、秋吉、中須賀、水野、野佐根、渡辺一樹、渡辺一馬、加賀山就臣(ヨシムラスズキMOTULレーシング)、亀井雄大(Honda Suzuka Racing Team)、津田拓也(TK SUZUKI BLUE MAX)の上位10台。
「序盤からトップに立って後続との差を広げていく」。高橋が得意とするレース展開となった。3周目には早くも2分5秒台に入れ、6周目には2分5秒278のファステストラップをたたき出すと2位との差を7秒にまで広げる。その後も10周目まで5秒台を連発、10周終了時点で11秒084差をつけて完全に一人旅となる。「鈴鹿の高橋選手は速い。レース2では完全に追いつけなかったし、仮にレース1で高橋巧選手が走っていたら自分は間違いなく抜かれていた」と中須賀が認めるほどである。
レース2の話題をさらったのは序盤の秋吉耕祐と終盤の渡辺一樹だ。秋吉は2周目に2番手に浮上すると5周目までヤマハファクトリーの2台を押さえて走行する。3周目に2分6秒357のベストタイムをマークすると、中須賀、野佐根とほぼ同じ6秒台中盤でラップする。6周目のヘアピン進入の110Rで野佐根がもの凄い勢いで秋吉をパッシング、続いて中須賀も襲いかかって来るが先行は許さず3番手をキープ。しかし7周目に中須賀と渡辺一樹にかわされて5番手に後退すると9周目の2コーナーで転倒、残念ながらリタイアとなってしまう。
渡辺一樹は3周目に5番手に上がると秋吉、中須賀、野佐根の2番手争いグループに追いつく。中須賀との差が5周目に1秒175あったのが6周目には0.189秒と一気に近づく。ペースが上がらなくなってきた秋吉をかわすとヤマハファクトリー2台と五角に渡り合う。「いつもならすぐに離されてしまうけど今日はついて行けている。意外にも後ろから冷静に状況をみることができて抜きどころも見えた」とのコメントのとおり16周目のシケインで中須賀の前に出る、さらには野佐根もかわしてついに2位に浮上する。しかし17周目の130Rで抜き返された野佐根の前に出ようとして止まりきれずにオーバーラン、野佐根と中須賀にかわされて4番手に後退する。
高橋は2位に14秒996の大差をつけて優勝、今季5勝目を挙げる。「ここで負けたら本当に負けだと思ったので、最後は絶対に優勝して終える」そんな強い思いで走った。それを裏付ける圧倒的な速さ。今シーズンを象徴する高橋の強さであった。わずか6ポイント。その僅かの差で高橋の手からチャンピオンがすり抜けていった。
「改めてチャンピオンという壁は大きいな、と感じた。」高橋のコメントが全てを物語っている。
ファイナルラップ、2コーナーのイン側から中須賀が野佐根をパス、そのまま2位でチェッカー。この瞬間に11ポイント差を逆転して2019年シーズンのシリーズチャンピオンを獲得した。
3位は野佐根、4位には健闘した渡辺一樹、5位渡辺一馬(Kawasaki Team GREEN)、序盤上位を走行していた水野涼(MuSASHi RT HARC-PRO. Honda)はステップが折れてチカラを入れる事ができずラップタイムペースを挙げられず6位、7位はヨシムラでのラストランとなった加賀山就臣、8位は鈴鹿のプライベーター亀井、9位Zaqhwan Zaidi(Honda Asia-Dream Racing with SHOWA) 10位前田恵助(YAMALUBE RACING TEAM)の上位10位であった。
今シーズン、Team HRCの躍進によって中須賀は苦しめられた。圧倒的なマシンの差は大きくYZF-R1のバランスを崩してまで改良を加えた。「今年、高橋巧という強力なライバルの出現によって自分もチームも成長できた。そう言う意味では幸せだった。」とレース後に中須賀はコメントした。「勝つためにはどうすれば良いのか」を常に考えている中須賀ならではのコメントだ。
さらにシーズン後半、水野涼、野左根航汰の若手ライダーの急成長がレースを一段と面白くした。
高橋巧はチャンピオンを逃したが、今年最も速かったオトコは高橋巧に間違いない。来季、ワールドスーパーバイクへ行くと発表があった。是非ともそのチカラを世界で試して欲しい。
高橋巧記者会見コメント
「レース1ではあんな結果となってしまったので、自分がやることは優勝することだけでしたので全力で走りました。優勝はできましたが今年の目標であるチャンピオン獲得を逃してしまいました。レース1終了後「今シーズンは終わった」と思いました。改めてチャンピオンという壁は大きいな、と感じました。
レース1はずっと腹立たしくイライラしながら走っていました。でも今年最後のレースだし少しでもポイントを取って自分のできることを最大限やろう、と思って走ったら16位でフィニッシュしました。レース後ポイント差を確認したら9ポイント差とわかり、まだチャンスはあるなと思いました。ここで負けたら本当に負けだと思ったので、最後は絶対に優勝して終える、と決めました。
レース1の無駄な転倒、あれひとつで今年チャンピオンを逃してしまいました。こんなチャンスは滅多に来ないと思いますし、すごくリードしていたのに獲れなかったのは自分の実力不足だと思います。」
中須賀克行記者会見コメント
「レース1の記者会見でも言いましたが、レース1に高橋選手がいたら恐らく負けていたと思います。だからこそレース2では追いかけたかったのですが、自分自身の走りが堅くなって序盤ペースが上がらずキツかったです。
シリーズチャンピオンという大きなプレッシャーはありました。過去に1回失敗していることもあり、回数を重ねれば重ねるほどその重みが増していきます。
追いかける方が楽ですし、鈴鹿が速い高橋選手と良い勝負ができればと言う思いでレースウィークに入りました。しかしレース1が終わってから急に一転して守りに入ると言う形になり、今までにないパターンだったのでものすごく緊張しましたし疲れました。
今週の高橋選手は本当に速かったです。でもこう言う強力なライバルがいるからこそシーズン中盤から上り調子になれましたし、一番古いバイクではありますがチャンピオンという目標に向けてバイクの開発も進みました。そう言う意味では本当に良いシーズンだったと思っています。
ライバルがいることは自分自身が成長できるので幸せなことだと思います。野佐根選手も尻上がりに成長してきているのが自分にとっても刺激を受けています。自分ももっと進化できるように日々努力して全日本全体をもっと盛り上げて行ければと思います。
野左根航汰記者会見コメント
「自分にもチャンピオンになる可能性があったのですがそこは全く意識せず走りました。レース2は気温も低くて思ったほどグリップしなかったのでペースを上げられませんでした。2番手に上がってからもペースを上げられず後ろからつつかれていた感じでした。中須賀選手の守るものが大きいのに対して、自分は守るものが無いにも拘わらず負けてしまい、いつもの負け方以上に悔しいです。」
photo & text : Toshiyuki KOMAI