圧倒的な強さを見せつけたTeam HRCが優勝!ホンダに8年ぶりの勝利をもたらす
2022年鈴鹿8耐の決勝レースは、ホンダワークスのTeam HRCが全車周回遅れにする圧倒的な強さを見せつけて優勝。ホンダに8年ぶりの優勝をもたらした。2位にKawasaki Racing Team Suzuka 8H、2019年に次ぐ連覇を阻まれた。3位には急遽2人での走行となりながらも予選22位から驚異の追い上げを果たしたYOSHIMURA SERT Motul。
尚、決勝レースが終わって12日後の8月19日に正式なリザルトが発表された。決勝翌日8日の車検終了後も正式発表が出されず「一部の部品はFIM本部に送られ、FIMが公認したマシンの基準部品と比較される」とのアナウンスがあった。検査結果「10台のマシンはすべてFIMテクニカルレギュレーションに準拠していることが判明致しました」との発表があり、正式な順位が確定した。
午前11時30分、恒例のルマン式で決勝レースがスタート!ホールショットは予選4番手のF.C.C. TSR Honda France:ジョシュ・フックが奪う。Team HRC:高橋巧、Kawasaki Racing Team Suzuka 8H(以下KRT):レオン・ハスラムと続く。オープニングラップはジョシュ・フックが制し、バックストレートで高橋巧をパスしたレオン・ハスラムが2番手、高橋巧が3番手、4番手SDG Honda Racing:浦本修充、5番手Astemo Honda Dream SI Racing:作本輝介、そして予選22番手からスタートしたYOSHIMURA SERT Motul(以下ヨシムラ)グレッグ・ブラックがなんと15台抜きの7番手にまで順位を上げてきた。予選3番手のYART – Yamaha Official Team EWC(以下YART):ニッコロ・カネパはスタートでエンジンがかからず大きく出遅れて22番手まで順位を落とす。
2周目のスプーンカーブ。Astemo Honda Dream SI Racing作本が転倒、そのマシンが前方を走るSDG Honda Racing浦本を直撃。2台はスポンジバリアに食い込みマシンは大破した。バックストレートでTeam HRC高橋がトップに立ったところでセーフティカー(SC)が入る。
SC明けのヘアピンでヨシムラ:グレッグ・ブラックがKRT:レオン・ハスラムのインを突き2番手、そしてスプーンのイン側からTeam HRC:高橋をパスしてトップに浮上!しかし翌周のS字一つ目でKRT:レオン・ハスラムが抜き返す。バックストレートでTeam HRC高橋はヨシムラ:グレッグ・ブラックをパス、そしてホームストレートではKRTレオン・ハスラムをあっさりと抜いてトップに浮上する。高橋は2分7秒台を連発、11周目には2分7秒147と6秒台も見えるタイムをマーク。29周目のピットインまでに2位以下に9秒849ものマージンを築く。
オープニングラップで22番手まで順位を下げたYART:ニッコロ・カネパだが猛追によりSC明けに14番手、12周目には7番手、そして14周目にはなんと3番手にまで順位を上げて26周でマービン・フリッツにバトンタッチする。
第2スティントはTeam HRC:長島哲太、KRT:ジョナサン・レイのエース対決。ジョナサン・レイの追い上げに期待がかかるが長島は驚異の2分7秒台を連発。対するジョナサンは2分8秒台前半。ライダー交代の57周目時点で22秒681と差はさらに広がった。Team HRC:イケル・レクオーナ、KRT:アレックス・ローズの第3スティントの60周目。デグナーでマシンが炎上するアクシデントによりSCが入る。鈴鹿8耐では2台のSCが入る。先頭車両の前に入るのではなく第1コーナーとデグナーの2箇所から入り、その場所で2つのグループを作る。
ここで悲運な事態が生じる。2番手を走行していたKRTはトップTeam HRCと同じグループに入れなかった。これでTeam HRCとKRTとの間に半周の差が生まれてしまい、SCが明けた64周目には1分40秒128の大差となってしまった。YARTはKRTと同じグループに入ったため3秒716差まで詰め寄ってきた。
2周目にマシンを大破したSDG Honda Racing、懸命なマシン修復により14:15、再びコースイン、会場からは惜しみない拍手が送られた。
再びKRT:ジョナサン・レイが走行する第4スティント。2分7秒台で猛追、約30秒縮めて1分9秒まで近づいたが、なんと99周目のMCシケインでフロントから切れ込んで転倒、幸いマシンのダメージは少なくピットインせずに走行を続けるがトップTeam HRCとの差は約1分30秒にまで開いてしまう。
スタートから4時間経過。106周目のオーダーは、トップTeam HRC、2番手KRT、3番手ヨシムラ、4番手YART、5番手TOHO Racing、6番手S-PULSE DREAM RACING – ITEC 、7番手Honda Dream RT桜井ホンダ、8番手Team KODAMA、9番手Team ATJ with 日本郵便、10番手TONE RT SYNCEDGE 4413 BMWの上位10台。
その後大きな順位の変動はなく、トップのTeam HRCは独走体制を築く。長島哲太は113周目になんと2分6秒934を叩き出す。後半に入ってもなおこのタイム。その後も2分7秒台を連発し驚異的な強さを見せる。 そして127周目にKRTをも抜き去り周回遅れにした。
18:30を過ぎて残り1時間。その直後の189周目。衝撃的な画面が映し出される。YARTとアケノスピードヤマハのマシンがスプーンのスポンジバリアにめり込んでいた。YARTマービン・フリッツが転倒、伊達悠太のマシンを巻き込んでしまった。このアクシデントで3回目のSC投入。YARTはマービンにライダーチェンジする際に一度ピットボックスにマシンを入れるトラブル、ここで1分20秒を費やしていまい、トップから2周遅れとなってしまっていた。転倒したもののYARTのマシンは動いたため自力でピットに戻り、修復作業に入り、なんと8分45秒でコース復帰を果たす。このあたりはEWCフル参戦しているYARTならではの強みだ。
上位トップ3の後方でS-PULSE DREAM RACING – ITECとTOHO Racingの4番手争いが激しくなってくる。18;54、残り約30分でS-PULSE DREAM RACING – ITECは津田拓也から渥美心にライダーチェンジ。このピットインで約52秒後方にいたTOHO Racingの清成龍一が一気に0.940秒差にまで迫る。アウトラップの渥美を清成がパスして4番手に浮上する。
辺りが暗闇に包まれレースも残り30分。この時間帯でも2分7秒台をマークするTeam HRC:長島哲太。全車周回遅れにすると言う圧倒的な強さで見事に優勝!ホンダに8年ぶりの優勝をもたらした。2位にKRT。カワサキワークスの強さを見せたがホンダワークスの前では一歩及ばなかった。そして3位にはYOSHIMURA SERT Motul。ウィーク初日の転倒で怪我を負い、シリーズ最終戦でチャンピオンを撮るために帰国して緊急手術をすることにしたシルバン・ギュントーリが抜け、グレッグ・フラッグと渡辺一樹の2名で8時間を闘うことになった。予選は22番手とヨシムラとは思えない順位からのスタートだったが粘りの走りで3位表彰台をもぎ取った。
終盤激しくなった4番手争い。残り20分のところで清成がピットイン。給油のみのスプラッシュ&ゴーでピットアウトした。TOHO Racingは残り1時間5分の18;25にピットインして清成にライダーチェンジしていた。夜間走行のラップタイムダウンで燃費が向上するので最後まで保つかと思われたがシミュレーション上では僅かに足りなかったらしい。4位S-PULSE DREAM RACING – ITEC、5位TOHO Racingで決着した。6位にHonda Dream RT桜井ホンダ、終盤に転倒したYARTは7位でフィニッシュした。
事前テストから速さを見せていたホンダワークス・Team HRCの強さが際立った2022年の鈴鹿8耐であった。やはり本気を出したホンダは強い。
「めちゃくちゃ嬉しいです!嬉しい以外の表現が出てきません。自分がホンダの開発ライダーなってから、2021、2022年とホンダCBRを開発してきて、その集大成ではないですけど、ひとつの結果としてこの優勝で終えられたというのはとても重要なことだと思います」
「新型CBR1000RR-Rのポテンシャルをしっかりと見せられたということはすごく嬉しいですし、さらにホンダにとって8年ぶりの優勝ということで、強いHRC、本当にここまでやるのかという、強いホンダが帰ってきたことは本当に素直に嬉しいです」
<高橋巧 記者会見コメント>
「僕も嬉しい以外言葉が出てきません。2019年はすごく悔しい負け方で、最後は情けない走りで終わったので、まずは優勝できてホッとしていますし、足を引っ張らないでよかったと思っています」
「あとは、やっぱりテツ(長島)がずっと開発してきて、イケル(レクオーナ)もテストができてないなかでしっかりと安定したタイムで走ってくれました。ですので、チーム、開発グループ含め、しっかりと仕事をしてきてくれたからこその結果だと思うので、全員に感謝しています。ありがとうございました」
<イケル・レクオーナ記者会見コメント>
「本当に本当に嬉しく思っています。最高です。僕にとっては初めての耐久レースでこのように勝つことができて最高です。ふたりのチームメイトのおかげだと思いますし、鈴鹿のテストからバイクの調子も非常に良くて、本当に誇りに思っています」
「僕を参加させてくれて、開発をしているテツ(長島)はずっと素晴らしいラップタイムを獲得していたと思いますし、みんなのおかげで勝つことができて、本当にこのチームメイトのおかげだと思います。このような形で勝利を手にすることができてとても嬉しいです。」
<2位:Kawasaki Racing Team Suzuka 8H ジョナサン・レイ記者会見コメント>
「まずはTeam HRCの皆さまにおめでとうと伝えたいです。本当に素晴らしい走りですごく強いチームでした。今回も鈴鹿の表彰台に上がることができて本当に嬉しく思います。私たちのチームに関してはスーパーバイクの世界から鈴鹿8耐に切り替えて参加することは簡単なことではないのですが、みんながその忙しい状況を乗り越え、このようにベストを尽くしたと思いますので誇りに思っています。僕らのチームは本当に素晴らしいと思っています。」
「僕自身はこの8時間を振り返っていくつかミスをしてしまいましたが、結果的にベストを尽くしたし、僕だけではなくチームもベストを尽くしたと思いますので、とても満足しています。明日帰ってからしばらくは夏休みをとって、また再び通常のワールドスーパーバイクに戻って頑張り続けたいと思います。」
<2位:レオン・ハスラム記者会見コメント>
「レースを最後まで走ることができたことが嬉しいし、まして表彰台に上がることができて本当に嬉しく思っています。今回は勝つことができなかったけど、3人の素晴らしい努力の結果だと思っているし、チームの努力のおかげだと思っていますので本当に満足しています。来年は再び戻ってきて優勝したいと思っています。」
<2位:アレックス・ローズ記者会見コメント>
「鈴鹿8耐は決して簡単ではないと僕は何度来てもそう思いますが、今回はスーパーバイク世界選手権から初めてカワサキのスタッフとメカニックがたくさん参加しているのですよね。彼らにとっても鈴鹿サーキットは初めてなのですが、そのなかで本当に努力して頑張ったと思いますし、本当に私たちの誇りだと思います。もちろん彼らだけでなく、チームメイトふたりは素晴らしい走りを見せてくれたから満足しています。」
「今回は優勝したホンダの方が強くて、僕たちよりも素晴らしいパフォーマンスを見せたから優勝することができましたけど、僕たちはベストを尽くしましたし、本当にエンジョイすることもできたと思います」
<3位:YOSHIMURA SERT Motul 渡辺一樹記者会見コメント>
「鈴鹿8耐自体が3年ぶりで、本当に待ち望んでいたファンの方々がたくさんいると思いますが、そう言う方々の前でヨシムラSERT Motulとして、そのライダーとして表彰台の上からみなさんに顔を見せることができたことが、すごく自分的には嬉しかったです」
「テストの段階からチャビエル(・シメオン)が来れなくなり、レースウイークに入ってからもシルバンが怪我をしてしまい、そこから僕たちがふたりで戦うことになると決まってから、駒と言うかピースがどんどんと外れていくような状況で、予選も含めて非常に流れが良くなかったです。ですが、グレッグが『どこからきたの?』というようなスタートを決めてくれたおかげで、チームの雰囲気もすごくよくなりましたし、7~8周目ではもうトップにいました。22番手からのスタートでは簡単なことではないので、本当にグレッグに助けられたという思いが強いです」
「グレッグとふたりで結果的にはすごくハードな鈴鹿8耐にはなりましたが、非常に満足しています。チームのためにもこの表彰台を獲ることができて、またマシンを開発している自分としても、すごく自信になったといいますか、全日本ロードで開発している車両の情報をうまく活かしながら鈴鹿8耐でのスピードに繋げられたと思います。本当にハッピーです」
<3位:グレッグ・ブラック記者会見コメント>
「今回はふたりだけで走ることになってしまったので思っていたよりもタフな8時間耐久となってしまいました。僕たちは世界耐久シリーズに参戦してるので、1年を通して多くのポイントを獲得するというのが第一の目標になります。今回のレースに関しては安定した走りで、ポイントをしっかりと持って帰るという予定でしたが、それよりも良い結果を出すことができてすごく嬉く思います」
「ここに並んでいる優勝、準優勝の二つのチームは本当に素晴らしい走りをしたと思います。またYARTも何年も一緒に戦っていて本当に頑張ったのですが問題が発生して表彰台には上がれませんでした。」
「とにかく3位でフィニッシュできたのを何より嬉しく思います。ヨシムラには感謝したいです。本当に素晴らしいバイクを用意してくれて大満足です。今回獲得したポイントはチャンピオンシップにすごく影響すると思うので、次戦の最終戦ボルドール24時間も優勝を狙っていきたいと思います。今回は表彰台に上がることができて幸せです」
2022年 鈴鹿8時間耐久ロードレース 決勝レースの上位10位は以下の通り
- #33 Team HRC(長島哲太/高橋巧/I. レクオーナ)
- #10 Kawasaki Racing Team Suzuka 8H(L. ハスラム/A. ロウズ/J. レイ)
- #1 YOSHIMURA SERT Motul(G. ブラック/渡辺一樹)
- #95 S-PULSE DREAM RACING. ITEC(生形秀之/渥美心/津田拓也)
- #104 TOHO Racing(清成龍一/國川浩道/國峰啄磨)
- #72 Honda Dream RT SAKURAI HONDA(濱原颯道/日浦大治朗/國井勇輝)
- #7 YART-YAMAHA OFFICIAL TEAM EWC(M. フリッツ/N. カネパ/K. ハニカ)
- #40 Team ATJ with JAPAN POST(高橋裕紀/伊藤和輝/小山知良)
- #50 TEAM KODAMA(児玉勇太/長尾健史/長尾健吾)
- #5 F.C.C. TSR Honda France(J. フック/M. ディメリオ)
Photo: Toshiya Onishi
Photo & text : Toshiyuki KOMAI