岡崎静夏の新たなる挑戦⑤ 上手く回り始めた矢先の骨折。悔しい第5戦。
手島雄介率いる『日本郵便Honda Dream TP』から参戦する岡崎静夏を追う第5弾。開幕戦からの悪い流れを断ち切れた第4戦オートポリス。今季ベストリザルトの9位を獲得。この流れに乗ってさらに上を目指すべく第5戦の舞台:岡山国際サーキットに乗り込んだ。
オートポリスのセットで岡山入り
前戦オートポリス、やっとベースセットとなる方向性が見えた。チーム体制も変更、弟の慎を加え、大木を中心に岡崎・慎の3人で意思疎通は図る。これが功を奏した。慎の発案によるリンク変更も良い方向に転んだ。セットの方向性で迷走することが無くなった。市販マシンをベースとする他のカテゴリと違いJ-GP3クラスは唯一純粋なレースマシンで闘う。ほんのちょっと変えただけでキャラクターがガラリと変わってしまうこともある。
幹となるベースが決まらないまま枝葉の長さや付け方を変えても戦闘力を発揮できるまで至らなかったが、大木の言葉を借りれば「ストライクゾーンに入った状態」でセットを詰められるようになった。オートポリスで詰めきれなかったところを詰めるという状態で岡山入りした。
攻められるバイクになってきた
ウィーク前の事前テスト。初日は1分44秒台でトップから約3秒落ち。二日目には1分42秒台までタイムアップ。トックとの差も1秒4にまで縮め、順調にセットアップが進んでいることが伺える。レースウィーク初日のART合同走行。1本目1分43秒050、2本目1分42秒869で総合11番手。トップとの差は2秒5。上位陣も当然タイムアップをしてくるとは言え、もう少しタイムを出しておきたい。だが岡崎は意に介さない。「車体のセットの振れ幅が狭まってきていて、自分の手の内にある感触です。ですのでライダーの乗り方次第でタイムアップできる状態にあり前半戦の暗中模索とは雲泥の差です」。大木も慎も“ライダーが攻められるバイクになってきている”と手応えを感じた。
ライディングスタイルを変える
さらに岡崎はライディングスタイルを変えようとしていた。岡崎の信条とも言える深く・強いブレーキングから“丁寧なブレーキング“へ。闇雲にガツン!とかけるのではな丁寧にブレーキをかけることでコーナリングスピードを上げていく、そんなイメージを描きながら走っている。「深いブレーキングが速く走れる道だとずっと思ってきたのですが、トップライダーの走りを見て違うと気づきました。」
大木は「走りを変えると言うより引き出しを増やす、という感じですね。筑波はバイクの状況も良くなかった。雑に乗ると転倒するネガが強かったので彼女のスタイルとは逆の乗り方をした。そう言う意味では新しい挑戦の良い機会でした。
そして彼女自身が今までと違うスタイルのメリットに気づいた。走りの幅が広がることは彼女の武器の一つになると期待しています。」
コンマ5秒
迎えた公式予選。3周目に1分42秒564に入れ、さらに1分42秒097と41秒台も見えるベストタイムをマーク。これは!とチーム内に期待が高まる。岡崎もさらにタイムアップできる自信があった。タイヤを新品に交換してアタックに向かう。その2周目、MCシケインでハイサイドの転倒を喫してしまう。ピットは騒然、落胆の色を隠せない。「タイムアタックするぞ、という時に前方に良いペースで走っているライダーがいたのでついていこうとしました。二輪シケインで思っていた以上に追いついてしまい強めにブレーキを掛けたにも拘らず早めにアクセルを開けてしまい、ハイサイドを起こしてしましました。やらなくても良い転倒でした」と反省しきりだ。
41秒5。かなり高めだがウィークに入る前に目標にしていたタイム。だが予選の走りを見れば達成できたかもしれない。慎も「あとコンマ5秒詰められれば4番手にはつけられる」と思っていた。結局予選は1分42秒097で11番手。左足の甲が腫れて痛みはあったが歩けたのでアイシングして決勝に備える。
実は骨折していた
決勝日の朝フリー。足の痛みが増していた。昨日の転倒でシフトペダルが少し内側に曲がっていたこともありシフトダウンが入りづらい。その調整に大半を費やしてしまい数周しかできなかった。但、マシンは予選からいじる必要がなかったので岡崎の足の具合にかかっていた。慎が急遽ステンレスバットの底面を加工してパッドを作成、ブーツのインソールに巻いて患部にペダルが当たることを防止した。これでシフトダウンは問題なくなった。
決勝レース。スタートを決めて二輪シケインに飛び込みでは4つ順位を上げる。先頭集団に食らいつきオープニングラップを8番手で通過。尾野弘樹を先頭するトップグループはペースを上げて6台のパックとなる。岡崎はセカンドグループを引っ張る7番手を走行する。セカンドグループは11台による大きな集団となり、先頭で引っ張っていたが徐々に順位を落とす。シフトダウンはアルミの足の甲をパッドでカバーしたが足の裏の痛みが出てきた。「多分足の甲も裏も痛かったんですけど、甲の痛みだけに気を取られていました。レース中盤からペダルを踏むのも痛くなり、踏み方が浅くなってシフトアップがうまくいかない状態になっていました。」
痛みを堪えながら終盤の9周目に1分42秒台をマークする走りを見せたが集団から抜け出せず11位でチェッカー。悔しい結果となった。
レース後に病院で診てもらったところ、両足の甲を一箇所ずつ骨折していた。本人は知らずに決勝レースを走っていた。
ベースセットが決まった
「レースにタラレバはありませんが、転倒がなければひとつ上の先頭グループの中で走れていたと思います。それくらい今回はマシンがまとまっていました」と岡崎。
慎も同じた。「決して満足する結果ではありませんがやっとためになるレースだったかなと思います。予選から決勝までのセット変更は一切せずに行きました。トップ4番手までとは明らかにタイムが違いますが、その一歩手前ぐらいまでは行けると思いました。そんな矢先の転倒でライダーが一番悔しい思いをしていると思います」
大木も悔しがる。「うまくいかないものですね。。。ストライクゾーンに例えれば、どこからでも打てる状態にありました。マシンの設定をいじらずにライダーの乗り方を変えるだけで様々なアプローチができるようになりました。何より彼女が不安なく攻められるバイクになってきたのが良かったです。ベースセットが決まってきたかなと思います。予選でも目標タイムが現実味を帯びてきたところで転倒があり、うーーん、、と言う感じです。」
最終戦は苦手な鈴鹿
岡山で6位以内入賞、最終戦で表彰台を狙えればベストと考えていた澁田。「今回二輪シケインが課題でそこをクリアできればコンマ5秒くらいはタイムアップできたと思います。そのシケインで転倒してしまいましたが入賞圏内に進める手応えは感じました。本人も感じたと思います。マシンはまとまってきたのでこの流れのまま鈴鹿に臨んで表彰台を目指したいですね。」
岡崎は高速コーナーが多い鈴鹿が苦手だと言う。ただ、オートポリス・岡山で車体の方向性が決まってきて、大木・慎・岡崎の3人で進める作業が上手く機能してきたので迷走することはなく進みそうだという。「鈴鹿入り前に初めて嫌じゃないかもって感じています」と岡崎。
今シーズンの締めくくりとなる鈴鹿。良い流れを崩さず有終の美を飾ってほしい。
Photo & text : Toshiyuki KOMAI