岡崎静夏の新たなる挑戦。チームに所属して心機一転を図る。

2022/05/25

岡崎静夏の新たなる挑戦。チームに所属して心機一転を図る。

岡崎静夏。この名前を知らない人はいないだろう。全日本ロードレースJ-GP3クラスにフル参戦している女性ライダーだ。

今年で10年目のシーズンを迎える。全日本デビュー当時は現役高校生だったこともあり「女子高校生ライダー」として注目を集め、テレビ出演歴もある。だがそのレースキャリアは19年と長い。小学校5年性の時に3歳年下の弟に影響を受けてポケバイレースに出場したことがこの世界に入るきっかけとなった。

2009年・2010年にはMFJレディースロードレースで2年連続シリーズチャンピオンを獲得するなど活躍を続け、2010年にGP-MONOクラスで全日本格式へステップアップする。

男女混合の数少ないスポーツ

ロードレースは男性に混じって女性が闘うスポーツだ。女子ゴルフ、女子競泳、女子バレーボールなど女性だけの競技が圧倒的だ。しかし、「女子ロードレース」といカテゴリはない。体力的・筋力的にはハンデがある女性が男性に勝負を挑む。

以前その理由を聞いたことがある。「女性だから、ということを言い訳にしたくないのです。男子に比べて体力的に劣っているのは明らか。でもその中でどこまで行けるのかに挑戦したいです。何より、大好きなバイクでレースできることが楽しくて挑戦しています」根っからのバイク好きに加えて負けん気の強さが岡崎の源になっているのだろう。

世界グランプリのMoto3へスポット参戦

岡崎はJ-GP3クラスデビューから一貫して名門『コハラレーシング』に所属していた。小原斉監督の元、マシンセッティング、走り方、レースの組み立て方などを徹底的に叩き込まれた。徐々に頭角を表し、2015年にはシリーズランキング13位を獲得。翌2016年の開幕戦筑波では予選14 位から6位入賞を果たすなど上位争いに絡むレースが増えてシリーズランキング6位につける。そしてその年には世界グランプリのMoto3へスポット参戦を果たす。しかし世界との壁を痛感する結果となった。「世界との差を実感できたのが良かった。ウィークを通してGPライダーの走りにほんの少し近づけたような気がする。メチャクチャ悔しいけど勉強になった」と悔しさをバネに更なる向上を目指した。

2年ぶりにチームに所属

2020年、長年在籍したコハラレーシングを離れ自らのチームを立ち上げた。「小原さんのチームにいた時はフィーリングだけでコメントしていて自分で理解して考えたコメントができませんでした」。勉強して、考えて、自分たちでセットできるようにチームを立ち上げた。弟さんをメカニックに二人三脚で2シーズンを戦った。バイクの理解は進んだ、セットもある程度出せるようになった、しかし次第に上手く回らなくなった。「セッティングを考えながら、走りながら、弟もサスセッティングを考えながら燃調を考えるなど、考えることがいっぱいありました。さらに2人で完全に回そうとしたのでキャパオーバーとなってしまいました」

そんな時、以前から親子バイク教室で一緒に動いていたことのある手島雄介から声がかかり、2022年は『日本郵便Honda Dream TP』から参戦することになった。手島雄介は全日本ロードレース、アジアやヨーロッパで活躍したライダーだ。2013年に株式会社ティー・プロ・イノベーションを興し、レース参戦に留まらず、交通安全啓蒙や、親子バイク教室などを運営、代表取締役を努める。『日本郵便Honda Dream TP』は2020年にST1000クラス初代チャンピオン:高橋裕紀を輩出した実力チーム。安定した実力のあるチームへの加入は自分にとって良い方向で安定するのでは、と考えた。

計画的に前進することが大きなメリット

以前は2人で考えながらバタバタとレースウィークが過ぎていったと言う。セッティングや車両の詰めるところを計画的に進めることが難しかった。

「今年チームに所属して落ち着くことができました。マシンセットするメカニックがいるので現状の課題に対して“次のセッティングはこうしよう”“駄目だったらこうしよう”“何周走ってみて様子見よう”など計画的に前進できていのがすごいところだと思います。」

「一つ一つちゃん確認して進められているので、自分が得るものが多く、ライダーとしてのキャパシティを広げたいと思っています」

元全日本ロードレースJ-GP3ライダーの澁田晨央がセッティング全般を見る。メカニックとして林さんが岡崎のマシンをメンテする。エンジンを組むメカニックは他にいる。弟さんはテレメトリーを担当。データ分析を大木さんの元で勉強している。今まで2人でやってきたことが役割分担に伴う人員配置がされて機能している。「行き当たりばったりだった今までとは違います。組織として動いている感じです。私も走りに集中できているのでそこが嬉しいです」

新しい体制で臨んだ開幕戦

心機一転、新しい体制で臨んだ開幕戦だったが不調に終わった。セッティングの詰めができなかったと言う。
金曜日のART走行でリアのセットは良い感触を掴めた。ストップ&ゴーのもてぎではブレーキングが重要になるのだがフロントがうまく決まらず止まりきれなかった。予選、朝フリーもそれぞれ大きく振って試して現状ベストだろうと思われるセットで決勝に臨んだ。しかしフロントの課題は解決できず深いブレーキングができなかった。各コーナーでのタイムロスが一周になると大きなタイム差となって現れる。開幕戦は我慢のレースとなった。

コメント力に驚いた

レース後渋田に開幕戦の感想を聞いてみた。「(岡崎の)コメント力に驚きました。自分で感じていること、バイクに起きていることをしっかり伝てきます。ちょっとしたアジャストでも感じ取っています。良い方向に進むのに時間がかかり、ウィークを通して時間が足りなかった感じです。」

「今回サスペンションのストロークのセンサーがついていませんでした。ライダーのコメントと外から見た走行状態でのセッティングだったので、次戦SUGOではデータとライダーのフィーリングを一致させてもっと短い時間でセットを詰めていけるようにしたいと思います。」

「もてぎはブレーキングが強く、うまく自分でコントロールしなくてはいけないのですがそれができませんでした。全部のコーナーが厳しくなるとタイムが全く出ない、その悪循環に陥ってしまったのはライダーの力不足だと思います。」

「今出ている症状は今までに経験したことがなかったので、アドバイスをもらって違う方法でアプローチしました。その結果こんな変化になるんだと感じられたことは自分の引き出しとしてプラスにはなりましたがタイムに繋がっていません。次戦SUGOはそこからベースを作って気持ち良く攻められるセットを出せるようにしたいと思います。」

悔しい結果となった開幕戦。その原因を分析し次へのステップに繋げる。チームで走ることのメリットを最大限に活かしてマシンの完成度を上げていく。岡崎の新たな挑戦を見守っていきたい。

Photo & text : Toshiyuki KOMAI