岡崎静夏の新たなる挑戦③ ターニングポイントとなるか。気概を持って臨んだ第3戦。
手島雄介率いる『日本郵便Honda Dream TP』から参戦する岡崎静夏を追う第3弾。開幕戦もてぎ、第2戦SUGOと歯車が噛み合わず苦戦を強いられた。第3戦筑波はJ-GP3クラスのみの開催。ある意味チームスタッフを占有できる機会でもある。この筑波でマシンのセットを決め、後半戦に繋げるターニングポイントにしたいと意気込む。
岡崎が信頼を寄せる大木崇行
岡崎が信頼を寄せている人間がいる。大木崇行。2018年まで全日本ロードレースJ-GP2クラスに参戦、岡崎の出身チーム:コハラレーシング時代のチームメイトだった。レーシングライダー目線でアドバイスをもらえるのでとても参考になると言う。
岡崎は自身のコメントにまだ確固たる自信が持てない。セットが当たった時は「この方向で、あとイニシャルをコンマいくつ絞って」などと言えるが、大きく外した時にどの方向へ持っていけば良いのか想像がつかない。だからみんなのアドバイスを聞いても判断できない。そんな時は大木の意見を尊重すると言う。走行後のファーストインプレッションは大木に話す。
マシンのせいにしない岡崎
大木に今シーズンの岡崎について聞いてみた。ひと言で表すなら「このマシンでよく頑張っているな」だと言う。シーズンの始まりから悪い方向でまとまってしまい、まともに走れるレベルにはないと言う。これは意外だった。「今回(筑波)は仕切り直して、問題を整理して大きなハズレがないように、攻められるレベルに持っていくことを優先しようとスタッフで話し合いました」「そこそこのところに入ってくれば、ライダーが頑張れると思うんですけど、今は転ばないように走ることに集中せざるを得ない状態です」
岡崎は成績が悪くても決してマシンのせいにはしない。「自分のコメントが悪かったから」「ライダーの頑張りが足りなかったから」と筆者にはコメントしてきた。
「それはよくないのですけどね」と岡崎、大木、共に口にする。「ダメなところはダメ、と言わないとマシンのセットがそれ以上進まないから」
筑波は走り方が違う
マシンセットを仕切り直して迎えた金曜日のART合同走行。結果は1分1秒753。トップから約1秒遅れの18番手。「タイムは上がっていないけど感触としては今までで一番いいところに来ている」と岡崎。では何故上位に食い込めないのか。筑波は走らせ方が違うと言う。岡崎の走りはなるべく奥まで引っ張りガツン!と強いブレーキングで曲がる。しかし筑波ではそれでは速く走れないと言う。「トップライダーの走り方を見ると、ブレーキをかけるって言うよりブレーキを使う、みたいな感じ。自分はブレーキちゃんとかけなきゃと考えたていたのですが、それでは速く走れない。自分とは大きく違ったのでイメージを作り変えなきゃいけない」自分の走り方を変える、しかも翌朝の予選までに。難しいことに岡崎はチャレンジした。
変えられなかった走り
迎えた公式予選。今大会はワンデー開催のため、朝に予選を行い午後に決勝レースが行われる。予選開始5分経過、岡崎は10番手につける。これは!と周囲は期待する。最後のアタックのためにピットイン。タイヤ交換をして出て行こうとしたところでマシンが止まる。エンジントラブル。予選結果は25番手であった。
決勝レーススタート!1周目に21番手に浮上して戻ってくる。2周目に19番手、11周目に18番手、18周目に17番手に浮上する。先頭グループのラップタイムは1分00秒中盤、岡崎は1秒後半から2秒前半。ラップタイムペースは大きく離れている。だがこの時岡崎はある事にトライしていた。自分の走りとは大きく違うトップグループの走り方をイメージしながら走行していた。
それは澁田晨央も気づいていた。「最終コーナーは彼女の中でしっかりイメージができていて、自分が見に行った時もすごく綺麗に立ち上がっていました」。しかし、1コーナーはイメージができていなかった。「イメージができてしまえばその通りに走れる技術を持っているので、イメージ作りのきっかけやポイントがあればクリアできたと思います」
岡崎の前を走る八尋春葵とはラップタイムペースはほぼ同じ。抜こうと思えば抜ける自信はあった。だが「ファイナルラップで抜けば良い」と、1コーナーをクリアする走りを続けていた。すると23周目のアジアコーナーで多重クラッシュが発生、赤旗でレースが終了してしまった。岡崎は16位でフィニッシュ。「レースをしていなかった自分が悪い」と反省しきりだ。
筑波がターニングポイントだった。シーズン後にそう言いたい。
だがこの筑波をポジティブに捉えている。開幕戦もてぎ、第2戦SUGOと暗中模索していたがここに来て一筋の光が見えたと言う。
大木は「今まではストライクゾーンが見えなかった。だから何処へ進めば良いのかわからなかった。ですが筑波でストライクゾーンが見えたと思います。外角高めで外れたとしたらライダーの頑張りでストラクゾーンに入れることができる、みたいな。ライダーが頑張れる、攻められるバイクになってきたかな、と思います」と言う。「加えて今回はライダーが走り方を変えるチャレンジをしました。決勝に向けて乗りやすいバイクに持って行くことはできたのですが、それよりは今のバイクで乗り方を変えたらどうなるかを確かめた方が良いだろう、と言うことになりました」
澁田も「ライダーもアスリートだと思っているので走り方を変えると言うのは難しいと思います。陸上の選手にフォームを変えて走れと言ってもすぐに対応できないのと同じで、今回彼女は大変なことにチャレンジしたと思います。最終コーナーで体現できたことは凄いと思います。マシンは大きくセットを振って乗り込んだのですがここにきて「飛ばせる」と言うコメントが出てきました。飛ばせると言うことは車体がまとまってきていると言うことなのでそれは良かったなと思います。但、今回は乗り方を変えると言う人間のアジャストの時間が足りなかったかな、と思います」
普段のレースではどうしても高橋裕紀、小山知良に時間を取られがちな大木と澁田。だが今回は岡崎の専任としてウィークを通してずっと見ることができた。J-GP3は純粋なレーシングマシン。パーツのひとつひとつがピーキーでほんの少し変えただけで大きく変わるのでバランスを取るのが非常に難しい。あちらを立てればこちらが立たず、方向性が見えないと出口が見えない迷路に入る。ST600はストック車両なのである程度ベースセットが出ている。だから今回のような大外しは少ないと言う。
今回、そのベースセットができたかな、と大木と澁田。
「ベースセットが見つかった印象はあります。実際に大木さんと僕が走りを見て走りの課題も抽出できたと思います。次回オートポリスで本人が良いイメージを作り、それができるよう走りをしたときに車体に何が起きるかを見るのが楽しみではあります」と澁田。
大木も「筑波は結果だけを見たらダメじゃんって見えるかもしれないけど、ライダーがライディングで新しいことにチャレンジしようとした。完全に物にはできてなかったのですが、見えるものがあったんじゃないのかなと思います。」とポジティブに捉えている。
この筑波がターニングポイントとなるのか。今週末に行われるオートポリスでその答えが見られることに期待したい。
Photo & text : Toshiyuki KOMAI