岡崎静夏の新たなる挑戦④ 今季ベストリザルト! 歯車が噛み合い始めた第4戦。

2022/09/10

岡崎静夏の新たなる挑戦④ 今季ベストリザルト! 歯車が噛み合い始めた第4戦。

手島雄介率いる『日本郵便Honda Dream TP』から参戦する岡崎静夏を追う第4弾。開幕戦から苦戦を強いられてきた岡崎。第3戦筑波で後半戦に繋がる一筋の光明が見えた。果たしてターニングポイントになったのか。約2ヵ月ぶりのレースで九州オートポリスに乗り込んだ。

長年共に戦って来た弟・岡崎慎の存在

岡崎と長年チームを組み、コハラレーシング所属中も常に傍にいて苦楽を共にしてきたのが弟の慎だ。2020年自らのチームを立ち上げた時は二人で全てのことをこなしていた。レースのエントリーからマシンの整備はもちろんピットの設営・撤去まで。レースウィークに入ればマシンの各部調整しながら、セッティング・燃調管理など、当然二人の負担は増えてくる。キャパオーバー。これでは更に上を目指すことはできない、と手島雄介のチームの門戸を叩く。

あ・うんの呼吸

慎は岡崎のことをよく理解している。岡崎のコメントは時々症状と逆を言うことがあるらしい。例えば、「フロントが入らない」。それが「イニシャルが強すぎて入らない」のか「自分から入れることができない」のか理解できず、フロントが強いから弱めよう、となることもあるそうだ。また、岡崎が無意識のうちにアジャストしてしまうためセットが進まないこともあると言う。例えばリアの車高が低い時に無意識のうちにポジションを前に乗っている。だからセットを変えてマシンがどう変化するのかを見たい時でも「変化無し」と言うコメントが返ってくる。岡崎のコメントの奥を想像する、こうしたらこうするだろうな、と言うことを想定してセットを組む。

「ある意味面倒くさいのですが(笑)」。慎と岡崎双方がコメント。兄妹だからこその、あ・うんの呼吸が連帯感を高めているのだろう。

 ストライクゾーンから始めることができた

今回から岡崎のチーム体制に変更があった。ST600小山知良のスタッフが足りず岡崎のメカニックが引き抜かれた。今季テレメトリーなど電気系を担当していた慎がメカニックも兼務する形で入ってきた。主担当の大木、慎、岡崎の3人でマシンセットを詰めていく。筑波で見えた方向性からセットを一部変えて迎えた金曜日のART合同走行。ベストは2分1秒357。トップから約3秒遅れ。事前テストのベストは2分1秒969、トップから4秒1遅れ。岡山に入る前にリンクを変えて車高を若干上げた。重要なパーツなだけにまた迷路に戻る恐れもあったが杞憂に終わった。

「今回ストライクゾーンから始められたのが良かった。前半戦は暗闇の中で腕をブンブン振っている状態(笑)でしたから、ストライクゾーンの中で方向性を検討することができました」大木も好感触を得た。

今季ベストグリッド、ベストリザルト

迎えた公式予選。始まる前は「予選が下から3番目だったらどうしよう」と弱気になったそうである。「こんなところでビビっている場合じゃない」と気を取り直してコースイン。走り出して2周目に2分1秒141のベストを刻むと翌周に1分59秒995と2分を切るタイムをマーク。トップからも2秒8遅れの10番手につける。満足できるグリッドではないがマシンの仕上がりは思想に近づいてきた。「マシンの変化を感じて自分でコメントできるようになりました」。

大木もそれは感じた。「セットを変えたことに対して挙動変化を感じ、そこに対するコメントもハッキリとしていました。」

「攻められるバイクになってきた」と岡崎。「タイムが上がってきたので無理くりにでもトップに付いていきたいと言う思いが出てきてもそこで心を押さえないと飛んじゃう(転んじゃう)ので、マシン的にもライディング的にも現状ベストで走れるようにしたいと思います。」

決勝レース、10番グリッドからスタートを決めオープニングラップを先頭グループの6番手で戻ってくる。2周目も6番手をキープ、2分00秒のタイムでラップする。3周目には1分59秒851と予選を上回るタイムをマークする。その後9番手にポジションダウンするも安定して2分00秒台で周回を重ねる。レース終盤にはセカンドグループとほぼ同じラップタイムで周回、9位でチェッカーを受けた。今季ベストリザルト。

「前半戦のどうしようもない成績から比べたらこのリザルトは進歩したな、とは思います。マシンも良くなって“レースができる”と言う感覚もあります。もっと(6位入賞まで)いけるかな?と思いましたが、いきなりそんな上手く行くわけはなく、トップグループとの差は明らかでした。」確かに今季ベストリザルトだが本来のチカラのある岡崎、今までのポジションに戻ってきた、と言うのが正しいだろう。

「今回のレース中は無理しないペースで走れました。ですが勝負はできなかった。本来であればちょっと無茶かな?と思えるペースでもう一つ上のグループでバトルしないとレースしている意味がないと思います。」

そんなコメントが出てきたのも「攻められるバイク」になってきたからだろう。走行後に大木にフィーリングを伝え、慎も含めて対策を検討する。小山知良や高橋裕紀のデータも参考にすることもある。「いろいろなアドバイスがある中で“こうしたいです”と言えるようになってきました」と岡崎。前半戦はその判断ができなかった。それだけマシンセットのベクトルが定まってきたのだろう。

次戦に乞うご期待

レース後、大木に今大会について聞いてみた。「決勝スタートして6番手で走っていました。持ちタイムからするとあの位置で走れたことは大したものだし、本人も学ぶところが多かったようです。今回はマシンセットの方向性を見出せたのが大きな収穫でした。方向性を決めて“ここをこうすればこうなるだろう”を予想し、その結果を見てアジャストするのか、さらに変更するのかを冷静に分析することができました。まぁ、これが本来の姿なのですが(笑)今回ライダーが攻めることにチャレンジする余力が出てきたのが大きな成果だったかな、と感じます。次戦に乞うご期待ですね。」

今大会、ST600クラスが忙しくてあまり関われなかったという澁田。「タイムの上がり方を見れば良い方向に向かっているな、と感じました。持ちタイムの1分58秒に達せなかったのは本人も残念だと思っているでしょう。ですが前半戦には無かった“攻められる”“飛ばせる”バイクに近づいてきたのかな、と思います。次戦岡山で6位入賞できれば最終戦鈴鹿で表彰台も狙えるのではないかと思います。」

筑波でいろいろ試したことが良かった、と澁田。そこで見出した方向性に慎の発案によるリンク変更の変化でベースセットの方向性が見えた。「去年のポジションに戻ってポイントを取ろうと臨んだのがオートポリスでした。9位は今季前半に比べたら躍進ですが、ライダーとして9位で止まっているようではダメなので次戦岡山ではもっとガツガツ攻めて走って欲しいです。今回は少し守りに入ったかな、とも思えるのでもっと安心して攻められるバイクに仕上げていきたいと思います。」と慎。

オートポリスで歯車が噛み合い始めてきた。今週末に行われる岡山大会でガツガツ攻める岡崎に期待したい。

Photo & text : Toshiyuki KOMAI