岡崎静夏の新たなる挑戦⑥ 来季に繋がる光明が見えた最終戦。

2022/11/28

岡崎静夏の新たなる挑戦⑥ 来季に繋がる光明が見えた最終戦。

手島雄介率いる『日本郵便Honda Dream TP』から参戦する岡崎静夏を追う第6弾。良い流れが見えてきた矢先の骨折で不本意な結果に終わった前戦岡山。最終戦は苦手な鈴鹿。骨折と苦手意識、負の連鎖を断ち切れるか、泣いても笑っても最後のレースに臨んだ岡崎静夏を追った。

鈴鹿は苦手

オートポリスでベースセットとなる方向性が見えた。その流れで岡山に臨み、「車体のセットの振れ幅が狭まってきていて、自分の手の内にある感触です」とウィークの入りは良かった。公式予選で上位に食い込めるタイムが見えたところでハイサイド転倒。予選・決勝を11位で終える悔しい結果であった。

迎えた最終戦は鈴鹿。ここは今までのサーキットのセッティングが通用しない。高速コーナーが多くリアの入力が大きい。GP3ではS字はリアに荷重が乗ったままブレーキをかけずに切り返しながら登っていく。岡崎が得意とする強いブレーキングが活かしにくい。今まで「これだ!」と言うセットが見つからずいわば行き当たりばったりのセットも多かった。そんなこともあり岡崎の中で“鈴鹿は苦手”という意識が刷り込まれている。

無意識に足を庇ってしまう

岡山の転倒で骨折した足を無意識のうちに庇ってしまう。「自然とつま先を使わない乗り方になっていたみたいです。S字の切り返しでバイクの向きを変えきれずワンテンポワンテンポ遅れが出ていると思います。その積み重ねでタイムが伸びませんでした」

「骨折での筋力不足はあったと思います。人間って勝手に制御しちゃうみたいなところがあるので踏めていなかったと思います」と骨折の影響が小さくなかったと慎。

苦手な鈴鹿、両足の骨折と悪いことが重なりウィーク初日からタイムが伸びない。初日の特別スポーツ走行2分22秒678、トップから3秒8遅れ。二日目のART合同走行2分23秒221、トップから4秒7遅れと初日よりもタイムが下がってしまった。

「初日はサスペンションが動き過ぎるので二日目は前後共に硬い方向へ大きく振りました。ですが振り過ぎたようなので明日はその中間くらいで行こうと思います」

澁田もセッティングに苦しんでいる様子を見ていた。「鈴鹿はスピードを乗せるコースなので本人が飛ばせない何かに引っ掛かっているとペースを維持するのが難しいと思います」

予選20番手に沈む

迎えた公式予選。セッティングを変えて臨んだものの大幅なタイムアップには繋がらず2分21秒762。ウィークのベストは出せたが予選20番手に沈んだ。トップは2分16秒5。このタイム差は大きい。「前半戦ほど酷くはないけれど筑波くらいの状態にまで戻ってしまいました。」と大木。但、3日間走ってみて解決の方向性は見えてきた。決勝に向けて再び大きく振った。「自分のバイクじゃないと思えるくらいに振ってもらいました」と岡崎。結果的にこれが功を奏するのだがこの時点でやっとウィーク中のスタートラインに立った感がある。

決勝は12位

決勝レース。7列目20番グリッドからのスタート。オープニングラップを18番手で通過。2周目には20番手まで順位を落とすが徐々に順位を上げる。レース中盤7周目に入ったところで赤旗中断。6周終了時点での順位で周回数5周の超スプリントの第2レースがアナウンスされた。

第2レース、岡崎は16番グリッドからのスタート。オープニングラップは14番手で通過。後方の集団の中で走行を重ねる。そして最終ラップの最終シケインで勝負を仕掛けてパス、岡崎の最終戦は12位で終えた。このウィークで唯一「楽しかった」と言えるバトルだったがやはりそれは岡崎が得意とするブレーキング勝負のシーンであった。

鈴鹿の課題であったコーナーをクリアできずに終えてしまった。

「鈴鹿はブレーキをほとんどかけないで曲がっていく区間でタイム差がハッキリと出るコースなので、その課題に対して結果を出せませんでした。他のコースでもブレーキをかけないコーナーでタイムロスしているのはわかっていたので走り方を変えることで対応していたのですが、他のコースほどハッキリと自分の中でイメージさせることができませんでした」

「マシンは予選から大きく振って良くなった感触はありました。ですがそのマシンを振り回すことができなかったのはやはり足の骨折部分を無意識のうちに庇っていて踏み切れていなかったのでと思います。返す返すあの転倒は無用でした。」

ストライクゾーンに入らなくなってしまった

大木は「オートポリス、岡山とストライクゾーンに入ってきたのでその流れで行けるかなと思ったのですが鈴鹿のコース特性と鈴鹿はこうだという固定観念からストライクゾーンに入らなくなってきてしまいました。決勝日になってやっとストライクゾーンに入る状態になりました。そこまで来るのに時間がかかってしまいましたね。」

「マシン単体でアップデートしていくのと、ライダー自身がトライして変化させていくバランスが難しくて、オートポリス、岡山はライダーに重点を置いて進めたのが上手く回ったので今回それに甘えてしまったのかなと言う反省はあります」

ある意味逆のセットで走っていた

上手く回らなかった鈴鹿だが、前半戦の迷走から抜け出してベースセットが出たからこそ短時間で修正することができた。岡崎も“ここが正解なのだろうな”と言うイメージの中で模索していて前半戦の暗中模索とは違った。

慎は苦手意識についてある意味当然だったと言う。「静夏はストレートからフルブレーキングから入っていく攻め方が得意でそこに合わせたセッティングでした。ですが鈴鹿はシケインくらいしかその走り方が通用するコーナーがなくてコーナリングの速度域を上げていかないと戦えません。止めて曲がるブレーキング勝負ができず高速コーナーが多い鈴鹿である意味逆のセットのマシンで走っていました。だから本人は苦手と感じているのでしょう。」

だが今回鈴鹿のベースとなるセットが見えてきた。深いブレーキングに頼らずコーナリング速度を上げる。そこに岡崎がシーズン途中からトライしている丁寧なブレーキングでコーナリング速度を上げるライディングがマッチすれば鈴鹿で戦えると期待が高まる。「今回の鈴鹿のセットで他のサーキットを走った時にどんな化学反応を示すのかも楽しみです」と慎。

来年に向けた方向性が見えた

個人から『日本郵便Honda Dream TP』と言う大きなチームに所属、新しい体制で臨んだ今シーズン。前半3戦ノーポイントが響いてランキング14位に終わった。ゼロからスタートした前半戦は出口が見えない闇の中にいたが、後半戦からベースセットが決まり岡崎本来の走りができるようになった。

「データの無いところからデータを作りながらスタートした今シーズンだったので前半は迷走する時間が多かったと思います。オートポリスからベースが見え始め、ここからスタートした感はありますね。データの重要性を再認識しました」と澁田。

来季は今年のデータを元にしたセットで開幕を迎えられる。苦手と言われる鈴鹿のセットも見えてきた。岡崎自身も深いブレーキングに頼らない走り方の体得にチャレンジしている。ベースの見えたマシンと挑戦し続けるライダーの走りで開幕から岡崎本来の力を発揮できると期待したい。

手島雄介が見た岡崎静夏の1年間

最後にチーム監督である手島雄介に今年一年の岡崎について聞いてみた。

手島は元ST600クラスチャンピオンの全日本ライダー。2013年に自らの会社「T.Pro.Innovation」を立ち上げ現在のメインスポンサー:日本郵便株式会社とは2016年からずっとパートナーシップを結んでいる。手島のレースウィークはとにかく忙しい。ST1000、ST600、J-GP3の3クラスの監督を務める傍ら、サーキットに来場するスポンサー・関係者のアテンドで駆け回る。毎レース日本郵便の社員が300名前後来場するそうである。しかも全員自分でチケットを購入して。これは驚くべきことである。手島の地道な活動がレースとは縁のなかった日本郵便の社員に魅力が浸透した結果と言えよう。

多忙な手島だったのでシーズン中に取材する機会を逸してしまい先日オンラインで取材した。

手島は以前から「親子バイク教室」を運営しており、岡崎はずっとインストラクターとして手伝いをしていた。個人で参戦することに限界を感じていた岡崎が手島の元へ相談に行きチームに加入することとなった。「岡崎はポテンシャルのあるライダー。その価値を投影できる場所ができると思いました。」

日本郵便にも女性配達員が数多く在籍している。女性ライダーが女性配達員を応援するPR活動も有効だと考えた。

新体制で臨んだ岡崎だったが前半戦は苦しんだ。その点について手島は「まずチームにGP3のデータがなかったことが響きました。そしてライダーとチームとのコミュニケーションが欠落していた。この点については監督である自分にも責任があります。岡崎も遠慮してなのかハッキリと意思表示ができなかった。」

シリーズランキング14位。シーズンを終えて「マシン的にはやっと昨年のレベルに戻ったというところ。ライダー的には自分に足りない部分が明確に見えてきたのではないかと思う。」さらに岡崎は変わってきたと言う。「顔つきがレーサーっぽくなってきました。感情が入ってきて「個」の岡崎が出てきました。後半は自分で主張するようになってきた。私は”ライダーがチームを作る”を信条にしています。ライダーが主張しないとチームは成長しません。」感情を滅多に外に出さない岡崎。だが手島はそんな岡崎の心の変化を見逃さず今年一年の成長を感じている。

ロードレースは男性の中に女性が混じって勝負する数少ない競技。フィジカル的に不利な状況にも屈せず常に上を目指すのは大の負けず嫌いと根っからのバイク好きだから。レースに対するアグレッシブな姿勢とオフの時に見せる屈託のない笑顔のギャップも岡崎の魅力のひとつだ。これからも多くのファンを惹きつけガッツのある走りを魅せて欲しい。

Photo & text : Toshiyuki KOMA