ライダーがどれだけ自信を持っていけるのか、が重要
今年、ヨシムラのマシンは大きくセッティングを変えたそうである。基本的なジオメトリーを変えて安定指向に振ったとのことである。
今まではマシンがライダーを乗せていた=つまり「もっとタイムを出せるよ。もっと上手く乗ってよ!」とある意味マシンが要求をしていた。今年は、マシンは鈍感なのだがその代わり危ない思いもしない。「ライダーが、もう少し、もう少し、もう少しイケそうだ!」と言う方向性にバイクセッティングを仕上げたそうである。
ライダーがどうやったら速く走れるのか?もちろん速いオートバイを造ることが大事だが、オートバイは人間がダイレクトな感覚を使って走る乗り物なので、ライダーがどれだけ自信を持っていけるのか、の方が重要だと言う。
自信を持って走るためにオートバイのセッティングをする。
セッティングをしたらオートバイが速くなるわけではない。
ライダーが速く走らせることができるのだ。
何故か?自分が思っているようにオートバイが動く!と感じるから自信を持っていける。だから速く走らせることができるのだと言う。
常にライダーのメンタル面をサポートする加藤監督
メンタル面からサポートする加藤監督ならではのエピソードがある。今ではどのチームにもある、タイヤを温めるヒーターボックス。実は最初にこれを導入したのはヨシムラだという。その理由に驚いた。
タイヤを温めなくてならないと言う物理的な理由からではなく、「タイヤを温めているという安心感」をライダーに与えるためとのことである。
夏場の8耐、路面温度が50度超の状態でもタイヤの温まりが悪いと言われていた時があったそうである。ゴムの表面を温めるという次元の話ではなく、ライダーが積極的に荷重をかけてタイヤに熱を入れなくてはならない。しかし、ここで仮に、タイヤが温まっていると思ってコースに出て行ったライダーが滑ってヒヤリとしたとする。その時に、「もっと熱を入れて温めなくては!」と思ってくれれば良いのだが、「タイヤウォーマーがかかってなかったのか?」などライダーがネガティブな思考になってしまう場合もあり得る。その様な不安を抱いた瞬間に荷重をかけられなくなってしまい、さらに温まりが遅くなると言う。
緻密に分析された膨大なデータを基に闘う一方で、ライダーが自信を持って走るためのサポートを常に考えているように感じた。自信を持って走るからこそ速さと強さが生まれる。加藤監督の厳しさの中にライダーへの優しさを見たような気がした。
photo & text : koma