2014年11月2日、新たな伝説が生まれた。3年連続で全日本ロードレース・JSB1000クラスチャンピオンに中須賀克行選手が輝いた。これで5度目のチャンピオンだ。最高峰クラス5回のチャンピオン獲得は史上初である。
2014年は開幕ダッシュを決めたいと考えていた中須賀選手、その狙い通り開幕戦鈴鹿2&4で見事優勝。良い流れに乗れたかと思ったが続くオートポリスのスポーツ走行で転倒、満身創痍で決勝に臨んだ。結果は2位。今年成長著しい高橋巧選手がオートポリス、モテギと連勝する。続くSUGOでは雨に翻弄され不運な6位。リズムが狂ったと思ったが、冷静に自身を見つめて迎えたオートポリスで優勝、そして岡山で連勝を飾った。マシンの状態はベスト、身体のケガもすっかり回復、良い流れで最終戦鈴鹿を迎えた。しかしランキング2位の高橋選手とのポイント差は7ポイント。これはあってないようなものだと中須賀選手。
計り知れないプレッシャーの中での闘い
加えて中須賀選手を苦しめたのは想像を絶する重圧であった。チャンピオン争いをしていれば3連覇のことを聞かれるのは当然である。もちろんプロのライダーとして質問に応えるのは当たり前。しかし本音は“そっとしておいて欲しい”ではなかっただろうか。
レース後「来るなオーラを出していたかも(笑)」と冗談交じりに語っていたがウィーク中の中須賀選手の緊張感は外から見ていても感じられた。
「口から心臓が飛び出そうなくらい緊張した」レース1
迎えた決勝レース1。スタートこそ出遅れて5位まで順位を落とすも2週目にはトップを走る高橋選手の背後まで迫る。高橋選手の後ろでリズムが取りにくかった中須賀選手は一気にパスする。ウェットパッチがところどころ残り、ライン1〜2本分しか無い難しい路面、仮にここで自分のペースが下がっても抑える自信があったと、冷静であった。そのままトップチェッカー。レース1を優勝で飾った。
しかし「スターティンググリッドでは口から心臓が飛び出でそうなくらい緊張した」と記者会見で語った。「自分の走りをするだけ、だけど本当に自分のチカラを出し切れるのか?」と自問自答する毎日。反面、「大きなプレッシャーを跳ね返すだけの走りと自信も付いてきたと思う」と自分とチームがやって来たことの正しさを信じてレースに臨んだ。
最後まで集中して行け!サインボードから伝わってきたメッセージ
運命のレース2。またもや雨のレースとなった。先行する高橋選手を2周目にかわしてトップに立った中須賀選手。しかしなんと4周目に高橋選手がマシントラブルでリタイア。この瞬間に中須賀選手のチャンピオンは決定した。しかし、チームは高橋選手のリタイアをサインボードで出さなかったのである。「気を抜くとポカをしでかす自分の性格を知っているので“最後まで集中して行け!”とのメッセージだと思った」と中須賀選手。
トップに立った中須賀選手の背後からものすごい勢いで迫ってくるマシンがあった。加賀山就臣選手だ。今年はウェットのパッケージが決まったという加賀山選手は豪快に130Rでパスしていった。「加賀山選手に付いていくか?止めるか?」の葛藤があったと言うが、ここでも冷静な中須賀選手がいた。「何より大切なのは(レース2の)勝ちよりも3連覇達成なのでそこに専念した」と言う。レース2は加賀山選手が今季2勝目を挙げ、中須賀選手は2位表彰台を獲得、2014年シリーズチャンピオン、3年連続チャンピオン、5度目のチャンピオン、と3つの偉業を成し遂げたのである。
3連覇のタイトルは何度も狙えるチャレンジではない
「2010年からの4年間は悔しく長い時間だった」と中須賀選手。2010年、3連覇がかかった最終戦で勝ちにこだわって転倒、(3連覇を)逃してしまった。それからの4年間、中須賀選手はライダーとしても人間としても成長した。
「3連覇のタイトルは何度も狙えるチャレンジではない」と中須賀選手。確かにその通りである、チャンピオンを2回獲らなければ挑戦する権利さえ与えられない偉業である。チャンピオンを獲る難しさを知っている中須賀選手ならではのコメントではないだろうか。
「これでレジェンドになれたかな?」チャンピオン記者会見で控えめに語った中須賀選手。この1年、走り、コメント、行動、全てにおいてチャンピオンに相応しい「格」が備わり、人間的に大きくなったように感じる。新たなる中須賀伝説の更新が楽しみである。
photo & text : koma