全日本ロードレース第4戦SUGO決勝レース後の記者会見控え室。圧倒的強さを見せつけて優勝した中須賀克行選手(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)に「次はいよいよ鈴鹿8耐ですね!」と問いかけると「8耐はお祭りだから」と言う回答に少し驚いた。しかしそれは中須賀選手の本音ではなかった。
「自分に課せられた使命は、全日本ロードレースチャンピオン。先ずはそれを狙う。8耐は誰もが知っている特別なレース、やはり出るからには優勝を狙いたい。ましてや今年は勝ちを狙えるファクトリーチームだし」と中須賀選手。
「マシン、チーム体制、コンディション、、その時々の条件の中で最大限のパフォーマンスを発揮する。それがライダーの役割だと思っている」と中須賀選手。NEW R1のパフォーマンスの高さに評価が集まりがちだが、中須賀選手が乗っているからこそ今の成績があると思う。
開幕戦鈴鹿、マシンのセッティングが決まらず悩んでいた。誰もが厳しいと感じていたそのレース、中須賀選手のチカラで2位表彰台を勝ち獲った。わずかその1週間後のオートポリス、当然マシンはまだ詰め切れていない。しかしここで優勝。それはまさに中須賀選手が“ライダーとしての役割を果たした”結果だ。
鈴鹿8耐に向けて「レースでしっかり走れる状態になれば8耐でも通用するはず」
前人未踏のコースレコード更新!しかしたった1,000分の59秒差で…
8耐ウィークに入ってからもYAMAHA FACTORY RACING TEAMの好調は続く。フリー走行、計時予選でも常に上位に位置していた。そして迎えた、たった1度のタイムアタックで予選グリッドを決めるトップ10トライアル。中須賀選手は2分6秒059の驚速タイムをたたき出す。コースレコード更新だ!しかし、その前にチームメイトのポル・エスパルガロ選手が2分06秒000を出していた。その差、わずか1,000分の59秒。まばたきと同じくらいの差である。もちろんポールポジション獲得したのだからチームとしては嬉しい。だがレーシングライダー・中須賀克行としてはとても悔しかった。「この悔しさは全日本ロードレースで晴らす。最終戦鈴鹿では5秒台に入れますよ」
ポル・エスパルガロ選手とブラッドリー・スミス選手、この二人のMotoGPライダーと過ごした8耐ウィーク。初めての鈴鹿、初めてのマシンで2分7秒台で走った。そのことに驚くと同時にMotoGPライダーのポテンシャルの高さを感じたと言う。「MotoGPライダーの方が階級が上だとは思っていない。自分は全日本チャンピオンとしての誇りと日本を代表しているという自覚から、このチームは自分が引っ張っていくという自負があった。でも、彼らMotoGPライダーのレベルの高さと順応性の高さは認めざるを得ない。そう言う意味では今年の8耐は良い刺激になったし勉強になった」と言う。負けず嫌いの中須賀選手が認めるMotoGPライダーの実力。
他方、彼ら二人が「バイクに乗るのが楽しくて仕方ない」という姿をみて「その気持ちを忘れていた」と言う。「もちろんバイクに乗るのは好きだけど、勝たなくてはならない、もっと速いバイクにしなくてはならない、やることがたくさんあって「バイクに乗る楽しさ」を感じる余裕が無かった。結果が全てだから勝たなくてはならない、でもそれ以前のこの気持ちも大切だ。シーズン後半になって、自分がどんな気持ちでいられるのかが楽しみだ」と中須賀選手は言う。
誰もが予想していなかった第1スティント28周
迎えた決勝レース。ライバルチームがルーティンでピットインする中、YAMAHA FACTORY RACING TEAMは28周までピットインしなかった。これには場内騒然。「ヤマハファクトリーに騙されたーー!」と実況中継も驚く。ピットインのタイミングは中須賀選手に委ねられていたらしい。中須賀選手は得意とする攻めの走りを敢えて封印、燃費走行に徹して28周までピットインを引っ張った。そのことが後々に有利になるとわかっていたから。しかし体力的な負担は大きく、走行後は手が上げられないほどだったそうである。その後はご存知の通り圧勝とも言える優勝を飾った。
8耐優勝後、しかしその余韻に浸る間もなく、MotoGPテストをこなす。「8耐は遠い昔のことのようだ(笑)」と言い、こころは既に全日本ロードレース後半戦に向かっている。NEW R1は煮詰まってきている。だが「もっともっと速くなれるポテンシャルを持っている」と、さらなるマシンセッティングに余念が無い。そして前人未踏の全日本ロードレース4連覇を目指す。そのプレッシャーたるや半端ないと思われるが「意外と窮地に追い込まれると実力を発揮できるタイプかも」と中須賀選手。後半戦の活躍もとても楽しみである。
photo & text : koma