全日本ロードレース最終戦鈴鹿、2レース制の第1レースで中須賀克行選手(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)圧倒的な速さで前人未到の4年連続チャンピオンを決めた。それはあっけなく、むしろ静けさの中で迎えたチャンピオン決定の瞬間。
シーズン終盤、周囲には「今年の中須賀には勝てない」「別次元」という雰囲気が漂っていた。だからこそ中須賀選手は吠えた「もっとかかってこい!」と。
開幕戦鈴鹿、復活したファクトリー体制、ブランニューのYZF-R1、事前テストでそのポテンシャルの高さを確信していた中須賀選手はデビューWINを果たしたかった。しかし、レーシングマシンはとてもシビアで、ひとつひとつはものすごく高性能なパーツ、だけどそれらがまとまらないとチカラを発揮できない。例えば僅か1/100mm違うだけで乗りにくいマシンになってしまうこともある。MotoGPマシンの開発も担っている中須賀選手のシーズンオフはM1の開発にも時間を取られてしまい、R1の開発に時間がかかった。レースウィークに入ってからもマシンがまとまらず「優勝どころか上位入賞も難しいかも」とチームは覚悟を決めていたがなんと2位表彰台を獲得。それは紛れもなく中須賀選手の頑張りによるものであった。
わずか一週間後、吉川和多留監督が「今シーズンのターニングポイントとなったレース」と振り返る第2戦オートポリス。一週間ではマシンを改良することなどできるはずもなく、開幕戦と同じ状況のマシンで臨んだ。「原因は絞れたが解決までには時間がかかる。だからライダーの走りで何とかして欲しい」「本来チーム側で良い条件(マシン)を提供してレースに臨むべきだが今回は頼むしかなかった」と吉川監督。しかし中須賀選手はその重圧に見事に応えた。しかも前日の予選では他のライダーが撒いたオイルに乗り、時速200km/h以上で転倒。それでもポールポジションを獲得した上での優勝である。その喜びはひとしおで今シーズン初めて中須賀選手の笑顔を観ることができた。
その後の中須賀選手の快進撃はご存知の通りである。第3戦モテギ以降全てのレースでポール・トゥ・ウィン、鈴鹿8耐では19年振りにヤマハに優勝をもたらすなど「中須賀劇場」と言っても過言ではない活躍を続ける。しかしここで、そのあまりの速さに「New R1は速すぎる」「いつも独り勝ち」、やがては「つまらない」という声すら聞かれるようになってきた。しかし、果たしてそうなのだろうか。
何が自分の武器なのか、速くないときでも勝つための方法を探ってきた
鈴鹿8耐後、中須賀選手にインタビューする機会を得た。「マシン、チーム体制、コンディション、、その時々の条件の中で最大限のパフォーマンスを発揮する。それがライダーの役割だと思っている」今年はNew R1の速さとの相乗効果で向かうところ敵無しの状態だったが、他メーカーよりもパフォーマンスが劣っていた時期でも「どうやったら相手を負かすことができるのか」「自分の武器は何なのか」「いかに速く走るか」を常に考えてきた。決してモノのせいにはしなかった。
そうやって中須賀選手は過去に5回もチャンピオンを獲ってきたのだ。ライダー:中須賀克行としてのパフォーマンスを発揮したからである。
だからこそ今年蔓延していた“R1が速すぎるから”、“ファクトリ—体制だから”、という周囲の雰囲気に吠えた。
敵無しの状態など望んでない。
闘う相手がいてこそのレーシングライダー。
この言葉が今シーズンの中須賀選手を端的に表していると言えるだろう。
今年のNEW R1は確かに速い。しかし、その速さを発揮できるのは中須賀選手だからこそだ。他のライダーが乗ったとして同じパフォーマンスを発揮できるか?と言えば、それはできないだろう。
「バイクの速さ(パッケージ)=マシン+ライダー」、この二つが揃って初めて速さを発揮する。どちらか一方だけでもダメ。バイクを速く見せるのもライダーの仕事だ」と中須賀選手は言う。
鈴鹿8耐後「この悔しさは(鈴鹿8耐のトップ10トライアルでわずか1,000分の59秒差でポル・エスパロガロ選手に負けた)全日本ロードレースで晴らす。最終戦鈴鹿では5秒台に入れますよ」と語っていたが、現実のものとなった。しかもコースレコードを約1秒も上回る2分5秒192!4秒台も見えてくる驚速タイム。決してマシンの速さだけでは到達できない世界だ。
去る12月16日、中須賀選手は文部科学大臣杯を授与された。同杯は日本国内におけるスポーツの普及・振興を目的に全国規模で行われる各種スポーツで特に貢献度の高い人物に対して贈られる賞で中須賀選手は6回目、4年連続の授与となった。2002年から授与されている同杯を大臣自ら手渡すのはロードレース界では初めてのこと。それだけ中須賀選手の活躍が光ったシーズンと言えよう。
PHOTO提供:MFJ SUPERBIKE Toshihiro SATO
来シーズンはすでに始まっている。ライバル達も手をこまねいて見ているはずがない。お互いに切磋琢磨しながら、白熱したバトルがいたるところで繰り広げられ、全日本ロードレースがもっともっと盛り上がることを祈念して止まない。
photo & text : koma