全日本ロードレース第2戦オートポリス。久しぶりに中須賀克行選手のドヤ顔を見た。どうしても優勝が欲しかった。それは単に勝利数のひとつに数えられる優勝ではない、チームにとって、マシンにとって大きな前進となる勝利であったからだ。
リーダーボードのトップに中須賀選手がいない?
2015年シーズン、ヤマハはファクトリーチームとして参戦を表明、大きな話題となった。YAMHA FACTORY RACING TEAM、エースライダーはもちろん3年連続チャンピオンの中須賀克行選手。そしてALL NEWのYZF-R1。そのポテンシャルの高さは今シーズンのヤマハ・ユースチームの野左根航汰選手、藤田拓哉選手の活躍をみれば一目瞭然だろう。
しかしシーズン前の合同鈴鹿テスト。そして、オートポリスの事前テスト。両テストを通じて中須賀選手の名前がトップに出た事は無かった。もちろんトップに出る事が目的ではないが、明らかに普段とは違う光景だった。
ニューマシンなら速いのでは?
テストは実に多種多様な項目を試す。そのひとつひとつのデータの蓄積がマシンの戦闘力を高めていく。素人考えの筆者はニューマシンの投入だから速さは群を抜くモノがあるだろうと思っていた。だが、実際には違うようだ。
中須賀選手はファクトリーチーム。キット車とは違う構成である。「ひとつひとつのパーツはポテンシャルが高い。だけど、それをひとつにまとめようとするとバランスが取れない」と中須賀選手。フロントの車高をほんの1mm下げた(上げた)だけでまるっきり違う動きをするというレーシングマシン。我々には想像もできない世界でマシンを造り上げていく。数多くのテストメニューをこなし、データを取るための走り、中須賀選手が気持ち良く走るスタイルではなかったのかもしれない。
中須賀選手がいないフロントロー
迎えた開幕戦、中須賀選手は「ニューマシンでデビューウィンを!」と決めていた。しかし、まだ完璧とは言えないマシンの仕上がりでまさかの予選4位。中須賀選手がいない記者会見はどれくらいぶりだろうか。代わって,津田拓也選手、渡辺一樹選手、高橋巧選手、の若手3人がフロントローを獲得した。しかし3人とも「中須賀選手はレース展開(読み)が上手く、引き出しをいくつも持っている」と警戒。まさにその通りとなった決勝レース。スタートダッシュを決めた津田選手は逃げ切ったが、高橋選手、渡辺選手を抜き去り2位表彰台を獲得する。とても悔しそうな中須賀選手。しかしチームにとっては大きな2位。「修復不可能な方向では無いことが分かった。オートポリスまでにはまとめられるだろう」と吉川和多留氏は語った。
時速200km/hで転倒、場内が凍り付いた
翌周の第2戦オートポリス。A.R.T合同走行で速い中須賀選手が帰って来た!しかし公式予選Q1では他車が撒いたオイルに乗り、約時速200km/hのスピードで転倒、マシンは大破、場内は凍り付いた。幸いにも中須賀選手は大事に至らずQ2に進出した。そのQ2では堂々のポールポジションを獲得。しかも「コースレコード更新を狙っていた」というのだから中須賀選手の強靱な体力と精神力には驚かされる。
どうしても欲しかった優勝「もっとマシンと仲良くなりたい」中須賀選手
迎えた決勝レース。この週末で一番高い気温と路面温度。タイヤに厳しいのは分かっていたからタイヤを温存しながら勝ちを狙った。序盤、ユースチームの野左根航汰選手が最高峰クラスのトップを4周に渡って走行、しかも大先輩中須賀選手を従えての周回である。残念ながら野左根選手は転倒リタイアとなってしまうが「若手が出てきてくれるのは嬉しい、ヤマハも若手育成を狙ってプロジェクトを始動させている。うかうかしていられないけど(笑)」と中須賀選手。
トップを走る渡辺選手の走りを後ろから冷静に観察、抜けるポイントを掴んだらあとは抜くタイミングを待っていた。ラスト4周、スパートを掛けてトップを奪うとそのままチェッカー!
どうしても欲しかった優勝を手に入れた。「やっとマシンがまとまってきた。でもまだ完璧ではない。自分ももっとマシンと仲良くなれるように歩み寄りたい」と中須賀選手。
完璧に仕上がったNEW R1と中須賀選手の強さが合わさった時、どんな速さを魅せてくれるのか、とても楽しみである。
photo & text : koma