2021年、7年ぶりに全日本ロードレースへ参戦した篠崎佐助(TEAM TEC2 & YSS)を追いかけるRacing Heroesのシリーズ第4弾。前戦鈴鹿の2位で開幕からの連勝記録がストップ。「勝たなきゃ意味が無い、2位は負けと一緒」と人一倍負けず嫌いの篠崎は悔しさを滲ませた。
チャンピオン獲得というプレッシャー
鈴鹿ラウンドを終えてランキングトップの篠崎107.5ポイント、2番手中村龍之介(ENDLESS TEAM SHANTI)85ポイント、その差は22.5。岡山でチャンピオンを決めるには、中村の前でゴールし、且つ、表彰台に登ること。中村の前でゴールするだけならまだしも、表彰台が条件となるとハードルが高い。
レースウィーク初日のART合同走行1本目でいきなり転倒を喫する。豪雨の中、ペースの速い中村についていこうと思った矢先、1コーナーでスリップダウン。マシンと路面の間に右足が挟まれた状態での転倒。おかげでマシンへのダメージは少なかった。午後はマシンの挙動確認に終始した。
「サスペンションが上手く決まらなかったのもありますが計測1周目に転倒してしまいした。幸いバイクの下に身体が入ってくれたのでマシンは壊れずに済みました。2本目は制動確認でした。1日に2度も転べないので。
プレッシャーはありますね。コースレコード出せばレコードホルダーになれるし、総合優勝で決めればカッコイイですけど、無理してそこを目指してコケたら本末転倒なので。今回はチャンピオンだけを狙って走ります。でも最悪クラス優勝は獲りたいですね。」
我慢のレース
翌土曜日は予選・決勝レースを1日で行う。朝一番に行われた予選は前日の雨の影響でウェット路面。篠崎の右足は前日の転倒で腫れていた。痛み止めを飲みながらの予選。無理をせず決勝レースを優位に戦える位置の3番グリッドにつける。2番グリッドには同じチームの南博之(373 & TEAM TEC2 & YSS)がつけた。
決勝レースの頃には路面は乾きドライコンディション。12周の決勝レースがスタート。篠崎は2番手で1コーナーに進入する。先頭はポールポジションの田中直哉(JOYONE RACING)。南、TEC2サテライトチームの桐石世奈(Challenge Fox & TEAM TEC2 & YSS)、土岩直人(SHIN-RS & SUNOCO)と続き、中村は6番手。
篠崎は2周目のホームストレートでトップに立つ。しかしヘアピンで田中が抜き返す。だが篠崎は慌てなかった。「スタート前はガチガチに緊張していました。走れるのかな?って言うくらい。でもスタートして先頭グループで走って行くうちに大丈夫、と冷静になれました。」
トップ争いは田中、篠崎の2台、桐石と土岩が3番手争い、南と中村が5番手争いを展開。序盤はTEC2の3台が上位グループを走行する。南が徐々に遅れ、先頭グループは4台に絞られた。
ここで桐石が仕掛けてきた。6周目のホームストレートで篠崎のスリップから抜けて3番手浮上、さらにバックストレートで土岩のスリップからぬけて2番手に浮上する。篠崎は4番手。
このレースでチャンピオンを獲ることに絞った篠崎、いつもであれば4番手に甘んじているはずがなく果敢に前に出ることを考えたであろう。今回はいけると思っても堪えた。サインボードも“中村とのタイム差だけ”にして間合いを計り、自らを抑え我慢の走りに徹した。
「もちろん、攻めれば総合トップを獲れたかもしれません。但、そこにはリスクが伴う。今日はチャンピオンを獲りに来ました。何が起きるかわからないので我慢の走りをしました。想定外だったのは世奈ちゃんが来たこと(笑)。最低限インタークラスの優勝はしなくては、と思ったので世奈ちゃんを抜き返しました。」
翌周のレッドマンコーナー進入で桐石をパス、3番手に浮上。さらにその先の土岩をかわして2番手に浮上する。そのまま2位でチェッカー。7年ぶりに復帰した全日本でいきなりチャンピオンを獲得した。TEC2は2018年〜2020年の笠井悠太に続き4年連続チャンピオンを獲得した。
総合の優勝は田中、3位に桐石が入る。インタークラスでは篠崎優勝、桐石2位でTEC2がワン・ツーを獲得。
岡山国際サーキットと篠崎は縁が深い。2010年全日本ロードレースJ-GP3クラスで初めてのポールポジション獲得、初優勝したのがここ岡山。奇しくもチームもTEC2。そして今年、ここでシリーズチャンピオンを決めた。
藤原監督はゴール後の篠崎に開口一番「よく我慢したな」と声をかけた。「よく我慢したと思いますよ。抜こうと思えば抜けたのに行かせなかったのは可哀想かな、と思いましたが、やはりスポンサーがある以上チャンピオン獲得というのは大切ですし、今日はそっちを優先させました。すごいプレッシャーを感じていて可哀想でしたけどよく走り切りました。」
「チャンピオンを決められて良かったです。ホッとしました。今年自分を走らせてくれたチームへの恩返しができました。現役時代の走り・勘が戻らない中でTEC2のマシンのポテンシャルの高さに救われた部分が多々あります。岡山では我慢の走りに徹しましたがチャンピオンを獲れたので最終戦オートポリスでは思い切り走りたいと思います」
次はいよいよ最終戦オートポリス。チャンピオンを決めた篠崎の吹っ切れた走りに期待したい。
Photo & text : Toshiyuki KOMAI