2021年、7年ぶりに全日本ロードレースへ参戦した篠崎佐助(TEAM TEC2 & YSS)。篠崎佐助を追いかけるRacing Heroesのシリーズ最終回。前戦岡山で今季のシリーズチャンピオンを決めた篠崎は、プレッシャーから解放されて思い切りレースができるはずだったが、思わぬトラブルが襲いかかる。
Kawasaki Ninja ZX25Rで走れなくなった
岡山のレース終了後「ひょっとしたら最終戦では面白い体制で参戦するかもしれませんよ」と思わせぶりなコメントを発していた篠崎。それは4気筒マシン“Kawasaki Ninja ZX25R”で参戦することだった。
今季から4気筒が認可され、“Kawasaki Ninja ZX25R”が参戦を開始した。但、レース車両としてシェークダウンしてまだ時間が浅く、車重がCBRに比べて20kg近く重たいことがネックと言われている。そのNinja ZX25Rを篠崎が走らせたらどうなるのか、楽しみの一つでもあった。
最終戦レースウィークの木曜日にスポーツ走行が行われた。篠崎はNinja ZX25Rでコースイン。しかし、1本目にエンジンブロー。懸命に修理を試みるも木曜日は1本も走れずに終了。チームは急遽ファクトリー(香川県高松市)からCBRを運び込むことにした。金曜日の早朝にサーキットへ到着したCBR。しかし、台風14号の接近で天気予報は雨。セッティングをしている側からザッと強い雨が降っては止むを繰り返す。朝8時からのフリー走行1本目はところどころ濡れている難しい路面。ドライセットのままコースインしてマシンの状態を確認する。
午後は台風の影響で走れないと思っていたが、思いの外雨の降りだしが遅く、ドライに近い状態で走行できた。
「まさか木曜日にマシンが壊れるとは思ってもみませんでした。7年ぶりのオートポリスで走り方を思い出すためにも木曜日の走行がゼロ、というのは厳しかったです。急遽持ち込んだCBR250RRも岡山のセットのままだったのですが元のベースが良いのでさほど心配はしていません。むしろ7年ぶり走るライダーの方に不安があるでしょうか。。(苦笑)」
今シーズン5回目のポールポジション
台風14号は金曜日の夜のうちに九州地方を抜けたが、土曜日の朝9時からの予選時はウェット路面。決勝レースはドライが予想されるだけにドライで走りたかった篠崎だが、予選ではポールポジションを獲得する。しかも2番グリッドの中村龍之介に0.722秒の差をつけた。これで今シーズン、インタークラスでは全戦ポールポジションを獲得した。
安全に走ります、と言っておきながら
決勝レースが行われる頃にはすっかり晴れ渡り完全にドライコンディション。10周による今シーズン最後のレースが14:25にスタートした。ホールショットは篠崎が奪う。TEC2のサテライトチームに所属する南博之(373 & TEAM TEC2 & YSS)が2番手で3コーナーに進入する。3番手に中村。
「序盤からトップに立てたらスパートして後続を引き離したい」と考えていた篠崎、スタート直後から後続との差をじわりじわりと広げ、オープニングラップで2番手の中村と1.07秒の差をつける。
しかし中村も喰らい付きその差を縮めてくる。3周目のホームストレートでスリップから抜けるとトップを奪う。ここで篠崎にスイッチが入ったか、2コーナー立ち上がりで中村のマシン接触ギリギリまで寄せる鍔迫り合い、3コーナー進入でトップを奪い返す。その先の第1ヘアピン進入では中村が再び前に出る。5周目の第2ヘアピン進入で篠崎がトップを奪い返す。
その後も篠崎と中村はテール to ノーズのバトルを繰り返す。レース前は「安全に走ります」と言っておきながら、根っからの負けず嫌いの篠崎、ここで引くわけには行かない、と言わんばかりに中村の執拗な攻めに対して巧妙なブロックで対抗する。
ファイナルラップ、篠崎を射程に捕らえた中村が最終コーナーを立ち上がる。イン側にマシンを振り横並びでホームストレートを立ち上がる。ほぼ同時にゴール。篠崎に軍配が上がり、その差はたった100分の1秒。勝利のパフォーマンスをせずにやや俯き加減にクールダウン走行する篠崎。理由を聞くと「どっちが勝ったのかわからなかったんです。2位なのにウィニングランをしたらカッコ悪いじゃないですか。。」
豊原が初優勝、篠崎とダブルウィンで今シーズンを締め括る
予選9番グリッドからスタートした豊原。オープニングラップは9番手で通過。ここから猛追を開始する。3周目には6番手まで浮上し、豊原、梶山采千夏、鈴木悠太、石井千優がセカンドグループを形成。6周目の第2ヘアピンでついに先頭に立つとこの4台が毎周順位が入れ替わる熾烈なバトルを繰り返す。ファイナルラップ、ホームストレートを3番手で通過した豊原はアウト側から被せて梶山をパス、2番手に浮上する。その先の第2ヘアピンで鈴木をかわして先頭を奪い返す。そのまま抑え切りチェッカー!ナショナルクラス初優勝を飾った。
最終戦は、インタークラス:篠崎、ナショナルクラス:豊原、TEAM TEC2がダブルウィンを飾って締め括った。
「今年一年、最高のマシンと最高の体制で走らせてもらえたことに先ずは感謝したいです。TEAM TEC2はJP250の中でエリートチーム。チャンピオンを獲らなくては、というプレッシャーはありましたが、しっかりと結果を残せたことは良かったと思っています。今シーズン、とても楽しく過ごすことができました。日常生活ではこんなギリギリの世界でのバトルを味わうことはできません。この経験がこれからの自分の人生に大いに役立つと思っています。チームの皆さんにもスポンサーの皆様にも感謝しています。ありがとうございました。」
藤原監督に今年のレース活動について聞いてみた。「終わり良ければ全て良し!」藤原監督らしいひと言だ。だが、今年のTEAM TEC2の活躍を端的に表している言葉だろう。
7年ぶりに全日本ロードレースに復活した篠崎佐助。その速さはホンモノだった。それでも現役時代の感覚は完全には戻っていないという。7年のブランクを埋めるべく各サーキットで試行錯誤しながらの走り。だが、周囲からは「勝って当たり前」と見られる。そのプレッシャーと自分との闘いでもあった。チャンピオンというカタチでチームに恩返しをしたいと言っていたが見事に実現させた。篠崎佐助を追いかけるRacing Heroesのシリーズも今回が最終回。有終の美を飾れたことを本当に良かったと思う。
Photo & text : Toshiyuki KOMAI