全日本の歴史に名を刻んだ水野涼!最高峰クラスで外国車の優勝は史上初。しかも圧倒的な強さ!

2024/08/26

全日本の歴史に名を刻んだ水野涼!最高峰クラスで外国車の優勝は史上初。しかも圧倒的な強さ!

1967年全日本ロードレースがシリーズ戦としてスタートしてから57年間、最高峰クラスで国内バイクメーカー以外の外国車メーカーが優勝したことはなかった。そして今日、イタリアのドゥカティが外国車として初めて優勝した。ライダーは水野涼。チームはDUCATI Team KAGAYAMA。全日本の歴史に名を刻む偉業を成し遂げた。

2位は中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)3位は岡本裕生(YAMAHA FACTORY RACING TEAM 2)

第5戦もてぎ2&4 RACE決勝レース。朝フリーは時折薄陽が差すドライ。相変わらずの蒸し暑さ。水野が1分48秒287でトップタイム。48秒前半で周回を重ねて好調さをキープ。2番手は中須賀。朝のフリー走行でセットを変えるとコメントしていたが当たったようだ。48秒前半から中盤でラップしていた。3番手は岡本、4番手野左根航汰(Astemo Honda Dream SI Racing)。ここまでが48秒台。やはりこの4台が速い。

天気予報では14時から雨だったが12:45スタート時は晴れ。一段と蒸し暑さが増した。

ホールショットは野左根が奪う。水野、中須賀、岡本と続いて1コーナーに進入する。ダウンヒルストレートで水野が一気にトップに立つとオープニングラップを制する。野左根、中須賀、岡本までの4台がアタマひとつ抜け出し5番手以下との差を広げる。以下、長島哲太(DUNLOP Racing Team with YAHAGI)、津田拓也(オートレース宇部 Racing Team)、芳賀涼大(WORK NAVI NITRO RACING TEAM)、岩田悟(Team ATJ)、高橋巧(日本郵便Honda Dream TP)、関口太郎(SANMEI Team TARO PLUSONE)の上位10台。

やはり水野が速い。2周目に1分48秒2に入れると3周目には1分48秒080、47秒台も見えるラップタイムで周回する。「作戦は決めていなくて、レース展開によって考えようと思っていました」「1周目に前にいたのが野左根選手で、ここで抜いたら後ろとの差を広げられるかなと思い、パスしました」

スタートで前に出たら自分の持ちタイムを活かして引き離し、前に出られたら途中で抜いて引っ張っていく、どんな状況でも勝てるイメージを持っていた水野。そのベースとなるのが一発のタイムもアベレージも速い水野自身の強さ。そこには鈴鹿8耐の経験が活きている。「バイクの理解が深まりました」「アジャスト、タイヤマネジメントを含めてバイクの乗り方の理解が深まったと思います。シチュエーションやコンディションが変わっても対応できるようになりました」

「序盤のペースが良いので行けるところで行こうと考えていました」と野左根。中須賀は野左根がキーマンだと考えていた。「序盤に必ず出てくるので野左根選手の対処がポイントのひとつになると考えていました」

しかし「マシンを5kg軽量化した効果が出ていました」と言う野左根を中須賀はなかなかパスできない。3周目の5コーナー進入で野左根のインを刺すがクロスラインで抜き返される。5周目のホームストレートでパスした時には水野との差が2秒近くついていた。

水野は相変わらずのハイペース。7周目に1分48秒005のファステストラップをマーク。中須賀は48秒8、コンマ8秒のラップタイム差は大きい。レース折り返しを過ぎた11周目には4.668秒差にまで広がる。

「ラップタイムを見ながら、“乗れているな”と感じていました。中須賀さんとの差が開き始めてからはプッシュしなくてもタイムが出ていました。力まずリラックスしながらスムーズに乗れている感じでした」

中須賀は水野ほどペースを刻めない。「それはウィークの流れからわかっていました。だから決勝ではスタートで前に出られたら自分のペースで走って抑えようと思いましたがスタートで前に出られませんでした」

「野左根選手が踏ん張ってなかなか抜くことができず、その間に水野選手との差が開いてしまいました。もっと早く抜いていれば水野選手に違ったプレッシャーの掛け方ができたのですが、それも敗因のひとつです」

中須賀にかわされた野左根の背後に岡本が迫る。野左根は3周目に1分48秒233のベストタイムをマークしたがその後は48秒後半、49秒台、折り返し以降は50秒台とペースが上げ切らない。「序盤はペースが良いのですが条件が変わったり、タイヤがタレてきたりすると一気にペースが落ちてしまうので、そこが現状の課題です」

岡本はリアタイヤのグリップ感に苦戦した。「走り出してからすぐにリアのグリップ感がない事に気づきました」朝フリーでセットを変えたのだがフィーリングが良くなかったので予選のセットに戻した。しかし路面コンディションの変化によりそのセットがハマらなかった。7周目のS字で野左根をパスした後、前をいく中須賀を追う。残り5分を切ったところで中須賀の背後にまで迫ってきた。中須賀が49秒台に対して48秒台。残り3周では0.4秒差、テール・トゥ・ノーズにまで近づいた。

しかしここで中須賀がスパート。再び48秒台に戻して岡本との差を広げ始める。これに岡本は対応できず49秒前半。

「序盤、タイヤのグリップ感のアジャストに時間を使ってしまいました。それが一番の敗因です。後半になるとタイムを上げられたのですが、最後に中須賀さんに離されたのは自分の力不足です」

 水野は独走を続ける。そしてついにDUCATI Team KAGAYAMAが今シーズン初優勝を飾る。2位に4.1秒もの大差をつけて、しかもポール・トゥ・ウィン!このウィーク、誰よりも速かった水野涼。

30年間スズキのライダーとして闘ってきた加賀山就臣が意を決してドゥカティを選び、長年ホンダのライダーとして活躍してきた水野涼が加賀山就臣を選んだ。二人の目的はただ一つ、「勝つために」。

そして持ってきたのが世界チャンピオンのワークスマシン。誰も考えつかない荒技をやってのけるのが加賀山就臣。しかしその道のりは厳しかった。レースに間に合わない可能性もある中でなんとか走らせた開幕戦。そしていきなり2位表彰台。

スプリントでは世界チャンピオンだが耐久では未知数のマシンを鈴鹿8耐で走らせて表彰台まであと一歩届かず。そして今日、全日本の歴史に新たな1ページを刻んだ。外国車による全日本ロードレース最高峰クラス制覇。

あの中須賀克行に「今回水野選手が速かった、完敗です。心からおめでとうと言いたいです」と言わしめた。

「めちゃくちゃ嬉しいです。レース展開的にも速さを見せて勝てたことが良かったです。このウィーク、自分自身も調子が良くてそれをレースで証明できたことはすごく嬉しいです」

「ラップタイムペースも48秒ゼロから前半で刻めました。この持ちタイムには自身に繋がりました。また、あの暑い鈴鹿8耐を走った経験から今回同じような暑さの中で走っても体力の消耗を感じませんでしたし心拍数が上がると言うこともなく、落ち着いてレース運びができたことも強みのひとつになりました」

「後半戦が始まるとあっという間に流れてしまうので、後半戦の最初、このレースはキモになると考えていました。でここで獲れたことは非常に大きいです。まだチャンピオンの可能性は残っているし、この良い流れに乗って残りのレースで速さを見せていきたいです」

本当に良い笑顔をしていた。前半戦にチラリと覗かせていた不安そうは表情は全く無く、自信に満ち溢れていた。

加賀山就臣監督のコメント。

「お待たせしました!

イタリア大使館で“黒船来襲”を謳ってから半年以上、お待たせしましたが皆さんのおかげで優勝することができました。全日本の歴史の中で外国車初優勝という歴史に名を残すこともできました。ここから“黒船来襲”本格スタートです」

加賀山も鈴鹿8耐参戦が効いていると感じている。

「ワークスマシンを持ってきて一年目の環境、チームもライダーもデータ不足、セットアップ不足で前半戦はライダーの足を引っ張っちゃったこともあったけど、鈴鹿8耐であれだけの時間、あれだけの距離を走ることでチーム側もオートバイの理解が深まりました。やっぱり(効果が)大きかったのはライダーかな。あれだけ走り込んだのでどんなコンディションでもこうやって乗ればこれくらいのタイムは出せる、こんなレベルの走りができる、速く走れる攻略ができるようになったのが大きいです。“キャパが広がった”と思います」

「同じことがチーム側にも言えて、メカニックもオートバイへの理解度が深まったのでどんな状況でもあたふたすることがなくなりました。無駄なセッティング変更をしなくなり大事な部分だけを変更する、ステイする部分と変える部分のメリハリが付いてきてメカニックの本来の能力を発揮できるようになっています。ライダーとチーム一体となって“キャパが広がって”きています」

初優勝で感極まっているかと思ったが違ったようだ。

「むしろ開幕戦の方がジーンときました。“このマシンを走らせられた”という実感で。その後は表彰台が当たり前になってきて“今日も勝たせてあげられなかった”というプレッシャーが強くなってきて、今日は”ホッとした”というのが正直な気持ちですね」

全日本ロードレースに新たな歴史を作ったDUCATI Team KAGAYAMAと水野凉。勢いに乗って次戦オートポリス以降も速さを見せて来るだろう。一方、ヤマハファクトリーも黙っているわけがない。さらに入念な準備をして臨んで来るはずだ。後半戦がいよいよ目が離せなくなってきた。

全日本ロードレース第5戦 もてぎ2&4 RACE 決勝レース 上位10台は以下の通り。

優勝:#3 水野 涼 DUCATI Team KAGAYAMA
2:#1 中須賀 克行 YAMAHA FACTORY RACING TEAM
3:#2 岡本 裕生 YAMAHA FACTORY RACING TEAM 2
4:#32 野左根 航汰 Astemo HondaDream SI Racing
5:#6 津田 拓也 AutoRace Ube Racing Team
6:#33 高橋 巧 JAPAN POST HondaDream TP
7:#4 名越 哲平 SDG Honda Racing
8:#12 関口 太郎 SANMEI Team TARO PLUSONE
9:#14 児玉 勇太 Team Kodama
10:#7 清成 龍一 TOHO Racing

Photo & text:Toshiyuki KOMAI