満身創痍の中須賀克行、「絶対に諦めるな」と自分に言い聞かせて掴んだ今季7勝目、2位:野左根航汰、3位:高橋巧。
「絶対に諦めない」その強い気持ちが手負いの中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)を奮い立たせた。全日本ロードレース第6戦「TWIN RING MOTEGI 2&4 RACE」決勝レースは鈴鹿8耐の転倒で右肩を負傷、満身創痍の中須賀が気持ちの強さで今季7勝目を挙げる。2位に野左根航汰が入りヤマハファクトリーの1-2フィニッシュ。3位には悔しい高橋巧(Team HRC)
決勝当日も雲が多めながらカラリとした晴天。12時15分、23周の決勝レーススタート。
ホールショットは高橋巧が奪う。野左根も良いスタートを切ったがそれ以上に津田拓也(ヨシムラスズキMOTULレーシング)がスタートダッシュを決めて1コーナーをアウトから被せて野左根をパス、2番手で2コーナーを立ち上がる。中須賀はフロントを浮かせてしまいスタート失敗、渡辺一樹(ヨシムラスズキMOTULレーシング)が中須賀をかわして4番手で2コーナーを立ち上がる。
オープニングラップは高橋が制し、2番手に津田、3番手に野左根、4番手中須賀、5番手渡辺一樹、以下渡辺一馬(Kawasaki Team GREEN)、秋吉耕佑(au・テルルMotoUP RT)、高橋裕紀(KYB MORIWAKI MOTUL RACING)、加賀山就臣(Team KAGAYAMA)、清成龍一(KYB MORIWAKI MOTUL RACING)と続く。
中須賀は2周目に野佐根、津田をパスして2番手に浮上すると早くも高橋巧の背後からプレッシャーをかけ始める。スタートで出遅れた野佐根も3周目のS字で津田をパスして3番手に浮上、高橋巧、中須賀、野佐根、この3人で先頭グループを形成する。
序盤、高橋、中須賀がテール・トゥ・ノーズの接近戦を展開するのに対して野佐根が遅れ始め単独3番手走行となる。「なかなか追いつけなくて心が折れそうになった」というが、「自分より辛い中須賀選手が頑張っているのにここで諦めたら情けない」と気持ちを切り替えてスパートをかける。10周目に1分48秒850をマーク、一時は1.125秒まで開いた差が12周目には0.199秒差にまで詰めて再び三つ巴のバトルとなる。14周目のダウンヒルストレートで中須賀をパスすると、15周目の5コーナーでトップの高橋巧をパスするが130Rでクロスラインから高橋が抜き返す。しかしその先のS字でインをついた野佐根がついにトップに浮上する。
中須賀も動き出す。16周目のS字で高橋のインを突いて2番手に浮上、そして翌17周目の同じS字で野左根をパスしてトップに浮上する。「10周目までは肩も痛まず普通について行けたがそれ以降は腕に力が入らなくなってきたのでパッシングポイントを探していた」と言う。しかし野左根も黙っていない。ダウンヒルで中須賀を抜き返す。ビクトリーコーナーから最終コーナーで中須賀がもう一度抜き返し、このレースで初めてトップに立つ。
「自分自身に余裕がなかったから普段は終盤にトップに出るけど今日は早めに前に出てかき回そうと思った」と中須賀。
セカンドグループはヨシムラスズキMOTULレーシングのチームメイト同士で4番手争いをしていた。津田拓也、と渡辺一樹、二人ともスタートダッシュを決めてオープニングラップは津田2番手、渡辺5番手で通過する。ヨシムラのマシンが2台連なって走行、ヨシムラファンを沸かせた。津田、渡辺共にマシンにマイナートラブルが発生してペースを上げられず、津田4位、渡辺5位でフィニッシュした。
その後方でも同じチームが連なって走行していた。高橋裕紀と清成龍一のモリワキである。清成はマシンのセットアップを詰め切れず、高橋裕紀は決勝レース直前にタイヤを変更、グリップダウンは少ないがエッジグリップ不足を感じて共にペースを上げられず清成9位、高橋裕紀10位でチェッカーを受けた。
トップに立った中須賀、1分49秒台から50秒フラットのタイムで周回を重ねる。腕には力が入らず満身創痍であったが「絶対に諦めるな」と自分自身に言い聞かせて走行を続けてトップチェッカー、今季7勝目を挙げる。2位に野左根が入りヤマハファクトリーの1-2フィニッシュ。3位には悔しい高橋巧。
昨日の公式予選で「1分48秒台で3周走るが精一杯、4周目は走れなかった」と言う中須賀だが「絶対に勝つ」という強い気持ちがこの勝利を呼び込んだと言ってもいいだろう。
「嬉しい、のひと言に尽きます。
このウィーク、自分の身体と相談しながら走ってきました。昨日の予選も1分48秒台で走るのは3周がやっとの状態で、決勝レース23周保つかどうか不安しかありませんでした。でも諦めたらそこで全て終わってしまうので最後まで諦めない気持ちととにかく前に付いていくんだ、という強い気持ちを持って臨みました。
10周目までは肩も痛まず普通について行けましたがそれ以降は腕に力が入らなくなり厳しかったです。野佐根選手と高橋巧選手に抜かれた時に後ろから様子を見ていたらペースを上げられないようだったので「みんなキツイのかな」と思いました。
高橋選手の後ろで肩に負担がかからない走り方を考えて試行錯誤しました。今まで頑張りすぎていたブレーキングポイントがそこまでチカラを入れなくても曲がれることがわかったり、だんだんリズムを掴めていきました。
あとは自分の身体との相談でとにかく前に出て抑えようと思いました。自分のペースで1分49秒後半のタイムで刻めた時に思ったより後ろが詰めてこなかったので「これで良いんだ」と思いあとは最後まで集中して、腕を使い切っても構わないから走り切ろうと思って走りました。
常に「絶対に諦めるな」と自分自身に言い聞かせながら走った結果が優勝だったのでこれほど嬉しいことはありません。チームを始めスタッフ、トレーナーの先生、みんなが自分を支えてくれたことに感謝しています。この手負いの状態で勝てたことはチャンピオンシップを考える上で非常に大きな意味を持つと思います。」
「スタートは普通に決まったと思うのですがそこから序盤のペースが良くなくて、焦りもあって5コーナーでオーバーランしそうになったり、とリズムに乗れませんでした。3番手に浮上してからも前を行く高橋選手と中須賀選手に追いつけなくて心が折れそうになりましたが、自分より辛い状態の中須賀選手が頑張っているのに自分が諦めるのは情けないだけですのでそこでスイッチを入れ直しました。10周過ぎくらいからリズムを取り戻してきて1分48秒台を出して追い上げて中須賀選手にしかけたりしたのですが、自分には前に出ても引っ張れるペースがなくてそこが課題であります。また、レース全体の組み立てなどまだまだ中須賀選手に及びませんでした。
ここで勝てなかったことは大きなマイナスですが、今年強い高橋選手と中須賀選手にこういう形のバトルができたことは嬉しく思います。悔しい気持ちが大きいですが自分としてはやり切れたかな、と思います。次戦オートポリスは好きなサーキットですので次戦でリベンジしたいです。」
「ここ数戦続けているスタートで前に出て(バトルする)台数を絞ってからゆっくり勝負する戦略を取ろうと思っていました。序盤はコントロールしながら走っていて後ろについているのもわかっていましたが、途中で一度ペースを上げたらどうなるのかな、と思ったら普通に付いてきたので正直辛いな、と思いながら走っていました。想像以上に路面コンディションが変わっていて、3コーナー立ち上がりでミスしてからリズムが崩れてしまいました。ふたりに抜かれてからは全開で走っていましたが離される一方だったので課題はたくさんあります。次戦オートポリスは相性が良い方なのでしっかり勝負したいと思います。」
全日本ロードレース第6戦「TWIN RING MOTEGI 2&4 RACE」決勝レース上位10位の結果は以下の通り。
優勝:#21 中須賀克行 YAMAHA FACTORY RACING TEAM
2位:#5 野左根航汰 YAMAHA FACTORY RACING TEAM
3位:#1 高橋巧 Team HRC
4位:#12 津田拓也 ヨシムラスズキMOTULレーシング
5位:#26 渡辺一樹 ヨシムラスズキMOTULレーシング
6位:#11 渡辺一馬 Kawasaki Team GREEN
7位:#090 秋吉耕佑 au・テルルMotoUP RT
8位:#71 加賀山就臣 Team KAGAYAMA
9位:#23 清成龍一 KYB MORIWAKI MOTUL RACING
10位:#72 高橋裕紀 KYB MORIWAKI MOTUL RACING
photo & text :Toshiyuki KOMAI