YAMAHA FACTORY RACING TEAMが鈴鹿8耐4連覇を達成。F.C.C. TSR Honda Franceが日本のチームとして初めて世界チャンピオンに輝いた。
まさかの雨スタート
2017-2018 FIM世界耐久選手権シリーズ最終戦 鈴鹿8時間耐久ロードレースの決勝レースが開催された。台風12号は予報通りサーキットを直撃。土曜日の夜はホテルが揺れるほどの強風が吹いたが決勝日の朝には雨は止み青空ものぞいてきた。朝のフリー走行ではウェットからドライ路面へと変わっていった。
しかし、スタート進行の頃からサーキットは黒い雲に覆われ、雨が落ち始める。やがて大粒の雨となりみるみるうちに路面はウェットコンディションに。雨の中で8時間にわたる耐久レースのスタートが切られた。
雨の中、#33高橋巧が独走で飛ばす
ホールショットは#11 Kawasaki Team GREEN:レオン・ハスラムが奪う。しかし1コーナーのインから#33 Red Bull Honda with 日本郵便:高橋巧がかわしてトップに浮上。デグナーひとつめで#11レオン・ハスラムがラインを外してその差が広がる。オープニングラップは#33高橋が制し、以下、#11 レオン・ハスラム、#12 ヨシムラスズキMOTULレーシング:シルバン・ギュントーリ、#21 YAMAHA FACTORY RACING TEAM:マイケル・ファン・デル・マーク、#634 MuSASHi RT HARC-PRO. Honda:ランディ・ド・プニエ、#95エスパルスドリームレーシングIAI:渡辺一樹、#72 Honda Dream RT 桜井ホンダ:濱原颯道、#71 Team KAGAYAMA USA:加賀山就臣、#090 au・テルルMotoUP RT:秋吉耕佑、#79 Team SUP Dream Honda:岩戸亮介、の上位10台。
2周目の第2コーナーで#634 ランディ・ド・プニエが転倒、大きく順位を落とす。
雨の中、トップの高橋は後続を引き離し、5周目には5秒042の差をつけて独走態勢となる。
雨のスタート、ほとんどがレインタイヤを履いてスタートする中で、スリックタイヤを履いているチームがあった。#19 KYB MORIWAKI MOTUL RACING:清成龍一である。気温も高く風も強い、雨が上がれば路面は乾き出すと考えたと思われる。しかし雨脚は強くヘビーウェット路面をドライタイヤではまともに走れるはずもなく、2周目に59番手まで後退する。雨はすぐに止み太陽が顔を出すとレコードラインから乾き始め次第にレインタイヤでは厳しくなってくる。上位陣では15周目に#21 マイケル・ファン・デル・マーク、16周目に#11 ジョナサン・レイ、18周目に#33 高橋巧がドライタイヤに交換した。その間に#19清成は順位を上げ、31周目のピットイン時には15番手まで順位を上げる。
ワールドスーパーバイクライダーのスプリントレース並みのバトル
早々に14周目にタイヤ交換を済ませていた#12シルバン・ギュントーリがトップに立つと#21ファン・デル・マーク、#11ジョナサン・レイとの3台が激しくバトルを展開、しかし26周目のMCシケインで#12シルバン・ギュントーリが転倒。するとワールドスーパーバイクで火花を散らしている#21ファン・デル・マーク、#11ジョナサン・レイがテール・トゥ・ノーズのバトルを展開する。
43周目#21YAMAHA FACTORY RACING TEAMがアレックス・ローズに、翌44周目#11Kawasaki Team GREENがレオン・ハスラムにライダーチェンジ。前スティントと同じくワールドスーパーバイクライダーによるヤマハVSカワサキのバトルが展開される。#21アレックス・ローズは50周目2分7秒611のチームベストをマーク、52周目のホームストレートで#11レオン・ハスラムをパスしてトップに浮上。しかし、58周目のシケインで#11レオン・ハスラムがトップを奪い返す。この二人のバトルはしばらく続き、スプリントレース並みの接近戦に会場は大いに盛り上がる。
3時間(78周)が経過。トップは#11Kawasaki Team GREEN、4秒178後方に2番手#21YAMAHA FACTORY RACING TEAM、トップから10秒149後方に3番手#33Red Bull Honda with 日本郵便、同一周回はこの3台のみ。4番手#090au・テルルMotoUP RT、5番手#95エスパルスドリームレーシングIAI、6番手#5 F.C.C. TSR Honda France、7番手#22 Honda Asia Dream Racing、8番手#25 ホンダ鈴鹿レーシングチーム、9番手#19 KYB MORIWAKI MOTUL RACING、10番手#94 GMT YAMAHA。#090 au・テルルMotoUP RTはここまでずっと上位を安定して走行を続けている。
99周目、##21YAMAHA FACTORY RACING TEAMがルーティンのピットイン、マイケル・ファン・デル・マークからアレックス・ローズへライダーチェンジ。そして100周目、同じくルーティンのピットインをしてきた#11Kawasaki Team GREENジョナサン・レイだが、惰性でピットロードを下ってくる。ガス欠である。場内からどよめきが起こる。このピットイン作業に時間がかかり103周目にはトップ(#33 高橋)から1分17秒62の差がつく。104周目にピットインした#33中上貴晶はこの差を使い2番手でコース復帰を果たす。
4時間経過。再び雨。SC投入。#11ジョナサン・レイまさかの転倒
折り返しを迎える4時間(108周)経過。トップは#21YAMAHA FACTORY RACING TEAM、2番手#33Red Bull Honda with 日本郵便、3番手#11Kawasaki Team GREEN、4番手090au・テルルMotoUP RT、5番手#5F.C.C. TSR Honda France。
126周目、#21アレックス・ローズからマイケル・ファン・デル・マークへ、#11レオン・ハスラムからジョナサン・レイへルーティンのライダーチェンジ。その直後、雨が落ちてくる。ハーフウェット路面で滑りやすい中、#634MuSASHi RT HARC-PRO. Honda水野涼がデグナーで転倒、再スタートが切れずSC投入となる。SC解除直前に#80 TONE RT SYNCEDGE 4413三原壮紫がホームストレート上で前のマシンに追突転倒、SC継続となる。
134周目、それまで小降りだった雨が横殴りとなり、あっという間にウェット路面となる。ここでルーティンのピットインを行ったのが#33 Red Bull Honda with 日本郵便と#5 F.C.C. TSR Honda France。ウェットタイヤに交換してパトリック・ジェイコブセンとフレディ・フォーレイがピットアウト。すると最終コーナーで#52 TERAMOTO@J-TRIP Racing武田雄一が転倒、SCがさらに継続となる。西コースは土砂降り。この雨ではスリックタイヤは厳しく139周目に#21マイケル・ファン・デル・マークがピットイン、レインタイヤに交換、ライダーはそのままでコース復帰する。この間にトップは#33パトリック・ジェイコブセンに替わる。
ここで衝撃的な映像が飛び込んでくる。#11ジョナサン・レイがスプーンカーブで転倒。すぐにコース復帰するもののピットボックス内にマシンを入れる。マシンの修復を終えた渡辺一馬がコースイン。17:00、長かったSCが解除となりリスタート!
トップ#33パトリック・ジェイコブセンに#21マイケル・ファン・デル・マークが追いつく。142周目に0.64秒差まで詰めるとスプーンカーブでトップを奪い返す。
17:09、3回目のSC導入。西ストレートからピットロード入口の広範囲にわたってオイルが出ていた。この処理には時間がかかり約30分のSC走行後17:42にリスタート。その間に6時間を経過した。
決勝レースは残り2時間を切った。SC解除後、トップ#21マイケル・ファン・デル・マークのラップタイム2分25秒365、2番手走行#33パトリック・ジェイコブセン2分28秒730、一気に3秒859の差が開いた。154周目には6.327秒差、160周目には18.994秒差にまで拡がる。そして再び太陽が顔を出してレコードラインから路面が乾いてくる。
167周目#21マイケル・ファン・デル・マークがピットイン、ドライタイヤに交換、アレックス・ローズにチェンジしてコース復帰。そしてドライタイヤで一気に2分13秒台にまでタイムを上げる。他方、ウェットタイヤの#33パトリック・ジェイコブセン2分28秒台。170周目に#33パトリック・ジェイコブセンがピットイン、ドライタイヤに交換して中上貴晶が出ていく。しかしペースが上がらない。このピットインを最後にする6回ピット作戦のためか燃料をセーブして走行しているようである。
世界チャンピオンを賭けた闘い
後方では世界チャンピオンをかけた闘いが展開されていた。153周目#5フレディ・フォーレイ2分26秒605、#94マイク・ディ・メリオ2分25秒173その差は1分4秒283だが一周につき1秒ずつ近づいてくる。159周目#94マイク・ディ・メリオがドライタイヤに交換、2分14秒台にラップタイムを上げて#5フレディ・フォーレイを猛追。そして166周目に#5F.C.C. TSR Honda Franceがピットイン、ドライタイヤに交換してジョシュ・フックがコース復帰。168周目にはその差が4.9秒差に詰まる。169周目、ついに#94マイク・ディ・メリオが#5ジョシュ・フックをパス、5番手に浮上する。しかし179周目#94GMT YAMAHAは最後のピットイン、ダビデ・チェカにライダーチェンジを行い、順位は逆転。#5F.C.C. TSR Honda Franceが5位チェッカーを受け、日本チームとして初めて世界チャンピオンの称号を獲得した。
安定した走りで常に上位にいた#95エスパルスドリームレーシングIAI
154周目、4番手を走行していた#090秋吉耕佑が転倒逆バンク出口で転倒、大きく順位を落としてしまう。
代わって4番手に浮上したのが#95エスパルスドリームレーシングIAI。8耐合同テスト後に渡辺一樹の加入が決まり慌ただしく決勝レースへの準備を進めてきたがレースウィークに入ってから速さを見せ、公式予選、トップ10トライアル共に6番手を獲得。決勝レースでも常に4番手から6番手のポジションで走行、4位でチェッカーを受けた。
YAMAHA FACTORY RACING TEAMが4連覇達成
7時間経過、残り1時間。188周目、トップ#21アレックス・ローズと#33中上貴晶との差は1分11秒126にまで広がった。そして192周目、#21アレックス・ローズは給油のみのスプラッシュ&ゴーのピットイン、最後の走行に出ていった。2番手#33中上貴晶との差は23秒151となるがそのままトップチェッカー!見事4年連続優勝の快挙を達成した。中須賀克行は土曜日のフリー走行での転倒で右肩を痛め「十分なパフォーマンスを発揮できない」として決勝欠場を決め、アレックス・ローズとマイケル・ファン・デル・マークの2名で走り切った。中須賀が走らないと聞いたときマイケル・ファン・デル・マークは「shit(困ったな)」しかしすぐに「僕たちはチームだから」と言ったそうである。中須賀は走らなかったが間違いなくこのチームは中須賀克行というライダーを中心に結束したチームである。
2位には10年ぶりにワークスとして復活、多くの話題を提供したホンダの#33 Red Bull Honda with 日本郵便。3位にはガス欠、転倒のトラブルを乗り越えて入賞した#11Kawasaki Team GREEN。
台風12号の接近によりイベントスケジュールは大幅に変更になったがレース進行に大きな影響はなかった。決勝レースは降雨と好天、ドライ路面とウェット路面を繰り返す非常に難しいコンディションであった。YAMAHA FACTORY RACING TEAMが4連覇を達成、そして日本のチームとして初めて世界チャンピオンとなったF.C.C. TSR Honda France。二つの快挙が生まれた今年の鈴鹿8耐であった。
2017-2018 FIM世界耐久選手権シリーズ最終戦 鈴鹿8時間耐久ロードレース ト決勝レース上位10位は以下の通り。
優勝:#21 YAMAHA FACTORY RACING TEAM 中須賀克行/アレックス・ロウズ/マイケル・ファン・デル・マーク
2位:#33 Red Bull Honda with 日本郵便高橋巧/中上貴晶/パトリック・ジェイコブセン
3位:#11 Kawasaki Team GREEN 渡辺一馬/ジョナサン・レイ/レオン・ハスラム
4位:#95 エスパルスドリームレーシングIAI 生形秀之/トミー・ブライドウェル/渡辺一樹
5位:#5 F.C.C. TSR Honda France ジョシュ・フック/フレディ・フォーレ/アラン・テシェ
6位:#94 GMT 94 YAMAHA デビット・チェカ/ニッコロ・カネパ/マイク・ディ・メリオ
7位:#22 Honda Asia Dream Honda ザクワン・ザイディ/トロイ・ハーフォス/アンディ・イズディハール
8位:#19 KYB MORIWAKI MOTUL RACING 清成龍一/高橋裕紀/ラタパー・ウィライロー
9位:#111 Honda Endurance Team エルワン・ニゴン/セバスチャン・ジンバード/ヨニー・エルナンデス
10位:#12 ヨシムラスズキMOTULレーシング 津田拓也/シルバン・ギュントーリ/ブラッドリー・レイ
photo & text : Toshiyuki KOMAI