中須賀克行がレースをコントロールしてダブルウィン。高橋巧とのポイント差を11として最終戦に臨む。2位:野左根航汰、3位:高橋巧
全日本ロードレースも残りあと2戦。今回のオートポリスと最終戦鈴鹿を残すのみ。シーズン前半は圧倒的な速さを見せた高橋巧(Team HRC)が4連勝を飾りランキングトップに立つ。鈴鹿8耐明けの後半戦に入り中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)の逆襲に加え、野左根航汰(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)、水野涼(MuSASHi RT HARC-PRO. Honda)の若手ライダーが急成長、かき回してきて俄然面白くなってきたJSB1000クラス。
圧倒的な速さをみせる高橋巧+CBR1000RR SP2のパッケージに追いつくべく、マシンのバランスを崩してまで改良を加えてきたYZF-R1。オートポリスを得意とする中須賀が公式予選で自身が持つコースレコードを更新する1分46秒306をマーク。レース1,レース2共にポールポジションを獲得した。
公式予選と同日に決勝レース1が開催された。ここでも後半戦を象徴する若手ライダーの台頭が目立った。序盤から先頭に立ちレースを引っ張ったのは野佐根。中須賀は2番手を走行する。時おり中須賀が野佐根に仕掛けるが野佐根はブロックして前に行かせない。その中須賀を攻めたのが水野。絶対王者のワークスライダーに対して物怖じせず何度も勝負を仕掛ける。「若いライダーがレースをひっかき回すのは大歓迎」とコメントしていた中須賀。ここはしっかりと水野を押さえ込む。
後半、タイヤが厳しくなりラップタイムペースが上がらない水野を高橋がパス。3番手に浮上する。そして17周目、満を持して中須賀が野佐根をパス、ペースを上げる。中須賀のいつもの勝ちパターンか、と思いきや野佐根は必死に食らいつく。この粘りに中須賀もプッシュの手を緩めない。ヤマハファクトリー同士の手に汗握る一騎打ち。二人ともファイナルラップにベストタイム。野佐根に至ってはファステストラップをマークした。中須賀がわずかコンマ1秒差で優勝、2位に野佐根、3位に高橋、4位水野。ヤマハファクトリーのワン・ツーフィニッシュ。
後半、水野がジリジリと下がっていったが、この日のレースの主役は間違いなく水野と野佐根の二人の若手ライダーだ。
翌日も好天の中で決勝レース2スタート。ホールショットは水野が奪う。続いて中須賀、高橋、渡辺一馬(Kawasaki Team GREEN)の順に1コーナーに進入する。オープニングラップから野佐根が中須賀に仕掛ける。しかし逆に高橋にかわされて3番手。水野、中須賀、高橋、野佐根、渡辺一馬、渡辺一樹(ヨシムラスズキMOTULレーシング)、加賀山就臣(ヨシムラスズキMOTULレーシング)、岩戸亮介(Kawasaki Team GREEN)秋吉耕祐(au・テルルMotoUP RT)、羽田太河(au・テルルMotoUP RT)の順にオープニングラップを通過する。
水野は先頭を引っ張りながら周回を重ねる、中須賀はレース1同様に後ろについて水野の走りをみながら勝機を伺う。3周目に渡辺一樹が高橋をかわして4番手につける。ホンダ、ヤマハのワークスマシンに混じってヨシムラがこの位置を走行する。「トップグループの中に混じって走ることでワークスマシンと自分たちの差をしっかりと認識することができた」と渡辺。
8周目の1コーナー、再度野佐根が中須賀に仕掛けて前に出る。水野の急成長に触発されるように勝負強さが出てきた野佐根。「絶対に負けたくない相手」である水野の背後にピタリとつける。しかし10周目の第2ヘアピンで中須賀にかわされて再び3番手に。
次にレースが動いたのは14周目。3コーナーで野佐根がインから中須賀をパス。第1ヘアピンで僅かに膨らんだ水野の隙を逃さず、野佐根、中須賀が一気に前に出て野佐根―中須賀―水野のオーダー。水野も負けてない。第2ヘアピンをイン側のラインからレイトブレーキングで進入、立ち上がりで膨らみ野佐根にかわされたが中須賀は押さえて2番手に浮上。
野佐根、水野、中須賀の順に15周目のホームストレートに進入。スリップから抜けた水野が再びトップに浮上。
トップ争いをしている3台の背後に高橋はピタリと付けて周回を重ねる。やはりシーズン後半戦はこの4台がトップ争いを展開する。驚くべきはこの4台のラップタイムが0.01秒単位まで一緒であること。非常にハイレベルな接近戦を展開する。
15周目のファイナルコーナースタンドコーナーで中須賀が野佐根をかわして水野の背後にピタリと付ける。そして上りセクションのS字区間で水野のインから前に出てこのレースで初めてトップに立った中須賀。しかし水野も諦めない。1コーナーでスリップから抜けてインを突くがクロスラインから抜き返される。今年の水野は抜かれても諦めない勝負強さと、ワークスライダーに対しても自信を持って攻める姿勢を身につけてきた。
後ろから様子を見ていた中須賀、こうなるともう中須賀の十八番(おはこ)だ。「4人の中でタイヤマネジメントが一番できていたのは自分だと思う」と言う通りここからさらにペースを上げて、なんと19周目にファステストラップ1分48秒007をたたき出す。「昨日は航汰がすぐ後ろにいてコンマ1秒差で勝てた。今日は昨日よりも差を広げて勝つ」と決めていたと言う中須賀。その言葉通り0.861秒差をつけて優勝。地元オートポリスでダブルポール・トゥ・ウィンを飾る。
「タイヤを温存させていたつもりだったが思ったほど温存させられなかった。トップに立ったときに引っ張るペースを持っていなかったことが敗因」と語った野佐根は連続2位表彰台。
レース後半タイヤがタレてきてからのペースアップが課題の水野、18周目に自己ベストの1分48秒380をマークするものの、19周目には中須賀、野佐根からコンマ8秒遅いラップタイム。最終ラップに高橋にかわされて悔しい4位となった。
「スタートで前に出て引っ張りたかったがそれができず後ろから様子を伺っていた。その間にトップとの差が開いてしまいリスクを回避するために3位という選択肢を選んだ」という高橋、レース内容に納得はしていないが3位表彰台を獲得した。
これで中須賀と高橋のポイント差は一気に10ポイント縮まり、11ポイント差。残すは最終戦鈴鹿の2レースのみ。高橋が死守してチャンピオンを決めるか、中須賀が逆転でチャンピオンを獲得するか、非常に楽しみな最終戦となりそうだ。
全日本ロードレース第7戦 SUPER BIKE RACE in KYUSHU 決勝レース2 上位10位の結果は以下の通り。
優勝 #1中須賀 克行 YAMAHA FACTORY RACING TEAM
2位 #4 野左根 航汰 YAMAHA FACTORY RACING TEAM
3位 #13 高橋 巧 Team HRC
4位 #634 水野 涼 MuSASHi RT HARC-PRO.Honda
5位 #23 渡辺 一馬 Kawasaki Team GREEN
6位 #26 渡辺 一樹 ヨシムラスズキMOTULレーシング
7位 #64 岩戸 亮介 Kawasaki Team GREEN
8位 #75 前田 恵助 YAMALUBE RACING TEAM
9位 #12 加賀山 就臣 ヨシムラスズキMOTULレーシング
10位 #35 亀井 雄大 Honda Suzuka Racing Team
「久々にしっかりとコントロールできたレース展開で嬉しかったです。ホンダさんと巧選手のパッケージがレベルアップする中で追いつこうと苦労しながらも新しいパーツを投入したりして良いところまで来ました。昨日と同じ後ろから様子を見る戦略を取りましたがもっと台数が増えると思っていたのですが結局4台のパックとなったことは想定外でした。昨日は航汰選手が前、今日は水野選手が前にいて後ろからその走りを観させてもらいました。最後は航汰選手との一騎打ちとなり、昨日はコンマ1秒の差だったので今日はもっと引き離すと決めて臨んだので最後までフルプッシュしました。結果、昨日よりも離せたので良かったです。逆転チャンピオンへの道として自分に与えられた使命は勝つことだけなので、それができた時に必然と結果はついてくると思います。でもここで11ポイント差に縮まったことは自分にとって非常に大きいです。また、今シーズン、バランスを崩してまで造り上げてきた自分たちのバイクが巧+ホンダパッケージにどこまで通用するのかを見るのも楽しみですし、先ずは貪欲に勝ちにこだわりたいです。」
野左根航汰記者会見
「昨日は自分が引っ張って、今日は水野選手が引っ張るだろうな、と予想していたとおりの展開でした。3番手についてタイヤを温存していたつもりでしたが、水野選手と自分のリズムが違うので思っていたほどタイヤの温存ができていなかったようです。自分が前に出たときにそのまま逃げたかったのですがスリップストリームが使えないし、グリップもあまり良くなくてペースを上げられませんでした。前に出たときのペースを持っていなかったことが今日の敗因です。自分はチャンピオンシップのことは全く考えていません。それよりも一戦一戦、どうやったら勝てるのか、を考えていきたいです。そう言う意味では今日のレースは逆転したかったのですが、敵いませんでした。最終戦鈴鹿ではしっかりと勝ちにこだわって臨みたいと思います。」
高橋巧記者会見
「決勝レース中にいろいろと考えてトライしたのですが今日はトップに出るのは難しいと思いました。今シーズン残り2レースをと考えるとリスクは背負えないので残り数周で“最低でも3位”と目標を変えました。その目標はクリアできましたがレース内容には全く納得いっていません。この悔しさを最終戦にぶつけて良いバトルの末にチャンピオンを獲れるように頑張ります。チャンピオンへのプレッシャーは感じていません。こんなチャンスは滅多にないのでここでチャンピオンを獲れないようではそこまでのライダー、で終わってしまいます。まだ11ポイント差があるのでなんとか死守したいと思います。
スタートで前に出られたら、終盤に抜き返しに来ることまで想定して引っ張ろうと考えていました。後ろについたときは、タイヤを温存させて後半に仕掛けようと思いましたがリズムが違うので自分の勝負ポイントで仕掛けられませんでした。」
photo & text : Toshiyuki KOMAI
special thanks: race1 photo by Kotobuki Sato