蓋を開けてみればホンダワークスが圧巻の強さ。Team HRC3連覇達成、YART-YAMAHAは初表彰台、最終スティントで逆転したヨシムラが3位表彰台、DUCATI Team KAGAYAMAは悔しい4位。

2024/07/23

鈴鹿8耐のレースウィーク、絶対的な速さを見せていたYART-YAMAHA。しかしいざレースがスタートしたらTeam HRCの圧倒的な速さと安定性が際立ち、220周という鈴鹿8耐史上最大周回数を記録。Team HRC3連覇、ホンダの鈴鹿8耐優勝30回目、そして高橋巧の最多優勝記録6回、と記録づくめの2024年の鈴鹿8耐となった。

今年の鈴鹿8耐は恐らく過去最高に暑かったと思う。気温は37度近くまで上がり路面温度も60度に迫る。ライダー・チーム、そして観客にとって非常に厳しい大会となった。

午前11:30決勝スタート!ホールショットは#37ライターベルガー(BMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAM)が奪う。2番手#1ニッコロ・カネパ(YART-YAMAHA)、3番手#30 高橋巧(Team HRC)、4番手#12渥美心(YOSHIMURA SERT Motul)の順に1コーナーに進入する。#2水野涼(DUCATI Team KAGAYAMA)はエンジン始動に手間取り9番手と出遅れる。

スプーンカーブで#73國井勇輝(SDG Team HARC-PRO.Honda)が#12渥美をかわして4番手に浮上、最終シケインでは#1カネパが#37ライターベルガーのインを突きトップ浮上、オープニングラップを制する。

#1カネパがトップに立ち逃げにかかるかと思ったが、#30高橋がすぐさま2番手に浮上して背後につけて#1 VS #30のトップ争いとなる。スタートで出遅れた#2水野が2分7秒台という驚異的な速度で一気に追い上げをかけ、#30高橋の背後にピタリとつけた。そして直線の速さを活かして6周目のバックストレートでホンダワークスの高橋をパスするとシケインで#1カネパも料理。一気にトップに浮上する!

するとすかさず#1カネパはデグナーひとつ目で#2水野のインを突く。行き場を失った#2水野はゼブラに乗りその隙に#30高橋が2番手浮上。

8周目のバックストレートで#2水野は一気にカネパ、高橋をパスしてトップを奪取する。するとその翌周のシケインで#1カネパが#2水野をパスする。序盤の#1カネパと#2水野のスプリントレース並みのバトル。この時#30高橋は「前の2台のバトルが危ないと思ったので後ろから様子を見ていました」と背後からチャンスを伺っていた。

#30 高橋は10周目のホームストレートでまず#2水野をパス、さらにバックストレートで#1カネパをパスしてトップに浮上する。「思ったよりペースが上がらないので自分が前に出ることにしました」。その言葉通りトップに立つと一気に2分7秒台にペースアップ、後続との差を広げ始める。

開始から30分、#777ジーノ・リアがデグナー二つ目で転倒、マシンがコース上に残ったためセーフティカー(SC)導入のサインが出される。しかしすぐにSCサインは消えてイエロー対応となった。SCサインを見た#30高橋はペースを2分17秒台にまで落とした。その際に#2水野がトップに浮上するが逆バンクで#30高橋がトップを奪い返す。

#30高橋は2分7秒後半から2分8秒中盤のタイムで快調に飛ばす。#2水野も喰らいつくが2分8秒から2分9秒のペース。#1カネパはソフトタイヤを選んだのが外れたためペースが上がらず2分9秒から2分10秒。すぐ背後に#73國井が迫ってきた。上位陣では#73 SDG Team HARC-PRO.Hondaが一番早く23周目にピットイン、浦本修充にライダーチェンジした。

#1YART-YAMAHAも24周目にピットイン、マービン・フリッツにライダー交代する。#2DUCATI Team KAGAYAMAは25周目にピットイン、ハフィス・シャーリンにライダーチェンジするがピットアウトの際にエンジンがかからず大幅にタイムロスしてしまう。

#30Team HRCは27周目まで引っ張り2番手に30秒以上の差をつけてピットイン、ヨハン・ザルコにライダーチェンジする。#12Yoshimura SERT Motulは28周目にダン・リンフットにライダーチェンジ。

序盤の激しいトップ争いは冷静に展開を読んでいた#30高橋が頃合いを見てスパートをかけ、その後は安定的な速さで後続を引き離す結果となった。

上位陣の1回目のピットインを終えた30周終了後の順位は、トップ#30 Team HRC、#1 YART-YAMAHA、#73 SDG Team HARC-PRO.Honda、#2 DUCATI Team KAGAYAMA、#12 YOSHIMURA SERT Motul、#37 BMW MOTORRAD、#5 F.C.C. TSR Honda France、#71 Honda Dream RT桜井ホンダ、#0 SUZUKI CN Challenge、#104 TOHO Racingの上位10台。

 

第2スティント、注目の#30 ヨハン・ザルコは2分7秒台を連発して速さをキープ。27周を安定してラップして2番手の#1 YART-YAMAHAに約24秒の差をつけて名越哲平にバトンタッチした。#30 ヨハン・ザルコの平均ラップタイムは2分8秒632(アウトラップを除く:手元集計)、高橋巧の1stスティントの平均ラップタイム2分8秒645を上回るタイム。1ヶ月前に初めて鈴鹿サーキットを走って高橋と遜色ないタイムで走れるのはさすがMotoGPライダーだ。

2番手の#1 マービン・フリッツの平均ラップタイムは2分8秒830(アウトラップを除く:手元集計)、第1スティント(ニッコロ・カネパ)が2分9秒450、これを見ても第1スティントのタイヤチョイスによりタイムが伸びなかったことが伺える。2分8秒台の平均ラップタイムで走行したのは#30 Team HRCと#1 YART-YAMAHAのみ。それ以外は9秒台、10秒台であった。

その中で特筆すべきは#73 SDG Team HARC-PRO.Hondaの浦本修充。安定して2分8秒台から9秒台前半で平均ラップタイム2分9秒417(アウトラップを除く:手元集計)。HRC、YARTに続く3番手タイムで周回して3番手をキープした。

その#73 SDG Team HARC-PRO.Hondaを悲劇が襲う。3番目にコースインしたマリオ・アジが15周でピットイン。木曜日の転倒で右肩を脱臼。怪我を押して決勝レースに臨んだが、この暑さの中を連続周回して症状が悪化、断念せざるを得なくなった。これで#73 SDG Team HARC-PRO.Hondaは浦本と國井の2名で残りのレースを戦う戦略を強いられる。

14:50、9番手を走行していた#5 F.C.C. TSR Honda Franceジョシュ・フックがデグナー二つ目で転倒、ピットに戻るかと思いきやそのまま13番手で走行を続ける。#5 ジョシュはその状態で9周走行、15:10、99周でマイク・ディ・メリオにライダーチェンジする。

15:30、上位陣に大きな変動はなく4時間経過、折り返しを迎える。この時点での順位はトップ#30 Team HRC、2番手の#1 YART-YAMAHAに38秒345の差をつけている。この2台が同一周回。3番手以下を周回遅れにする驚異的な速さ。3番手#12 YOSHIMURA SERT Motul、4番手#2 DUCATI Team KAGAYAMA、5番手#73 SDG Team HARC-PRO.Honda、以下#37 BMW MOTORRAD、#76 AutoRace Ube Racing Team、#71 Honda Dream RT桜井ホンダ、#104 TOHO Racing、#40 Team ATJ、の上位10台

#73 SDG Team HARC-PRO.Hondaは浦本と國井の懸命の走りで5番手をキープ、#37 BMW MOTORRADは安定した走りで6番手に位置する。7番手争いを#71 Honda Dream RT桜井ホンダ、#76 AutoRace Ube Racing Team、#104 TOHO Racingが展開する。近年の鈴鹿8耐は1スティントの休憩では疲れは取れないが#71桜井ホンダは伊藤和輝と日浦大治朗の2名体制で奮闘を続ける。伊藤は昨年の鈴鹿8耐以降に頭角を表し急成長している。日浦はスーパーモタードを主戦場にしており全日本ロードは鈴鹿のみのスポット参戦だがこと鈴鹿に関しては速い。この二人の踏ん張りでここまでの順位をキープできている。

15:40 、#5 TSRにコントロールタワー招集が命ぜられ、16:12にピット作業中のレギュレーション違反によるストップアンドゴーペナルティが科せられた。その30分後、マフラー破損により緊急ピットイン、修復に10分以上要してしまう。さらにアクシデントが続く。17:52 、S字でマイク・ディ・メリオが転倒、34番手まで順位を落としてしまう。事前テストで新型CBR1000RR-Rのシェイクダウンを行う予定が直前にキャンセル、このレースウィークがシェイクダウンとなった。先行きが不安視されたがさすがは名門チーム、徐々にまとめ上げてトップ10トライアル進出を果たし決勝レースでもトップ10圏内にいた。不運なアクシデントが続き最終的には33位でチェッカー。最終戦ボルドールに期待したい。

トップ#30 Team HRCと2番手#1 YART-YAMAHAは不動と思われ、#2 Team KAGAYAMAと#12 ヨシムラによる表彰台争いに注目が集まる。スプリントレースでは世界チャンピオンを獲得しているドゥカティパニガーレV4Rだが鈴鹿8耐においては耐久性・燃費、全てが未知数。むしろ「8時間保つのか?」と言う疑念の声の方が多かった。しかしここまでノントラブル、燃費も1スティント26周〜27周とトップチームと同程度、8回ピットが想像された。対して#12 ヨシムラは燃費が良い。6回目のピットインまで27周から29周で回している、7回ピットであろう。1回ピット回数が多い#2 Team KAGAYAMAは90秒程度のリードが必要となる。

そしてドラマは終盤に起きた。

16:53、#12 ヨシムラのピットストップに対して審議対象と言うテロップが表示されて騒然となる。

17:34、 #12 ヨシムラにコントロールタワー招集が命ぜられ、ピット作業中のレギュレーション違反によりライドスルーペナルティが課せられた。17:53 、177周目に#12 ヨシムラがライドスルーペナルティ消化。その隙に#2 Team KAGAYAMAが3番手に浮上、#12 ヨシムラとの差を58.087秒に広げる。

18:10、#2  Team KAGAYAMAピットイン、ジョシュ・ウォーターズからハフィス・シャーリンにライダーチェンジ。再び#12 ヨシムラが3番手浮上。ここで#2 ハフィスが2分8秒台で猛追、192周目に0.202秒差まで追い詰め、NIPPOコーナーで#12 ダンをパスして3番手に浮上。193周目にヨシムラがピットイン、最後のスティントを渥美心に託して送り出す。

この後の渥美が尋常ではなかった。ライダーチェンジ直後の#2 ハフィスとの差は59.192秒。198周目に2分7秒台に入れると199周目に2分7秒885のチームベストをマークすると55.189秒まで詰める。

18:54、202周目に#2 Team KAGAYAMAピットイン、ラストスティントは水野涼かと思われたがハフィスがダブルスティントで出て行く。アウトラップの#2 ハフィスのすぐ背後に7秒台でラップしていた#12 渥美が0.123秒差でピタリと付ける。この2台の激しいデッド・ヒートに会場内も熱くなる。ラスト30分、204周目のバックストレートで#12渥美が#2 ハフィスをパス、表彰台圏内3番手に浮上する。その後も#12 渥美は2分8秒台でラップ、#2 ハフィスとの差をジリジリと広げて行く。

トップを独走する#30 Team HRC。残り約20分の19:08、210周目にピットイン、ラストスティントを高橋巧に託して送り出す。しかし、このピット作業がこの後の衝撃的な事態を産む。

19:13、#30 Team HRCのピットストップについて審議中の衝撃的なテロップ表示、コントロールタワー招集が命ぜられた。この時の#30 と#1の差は49.728秒。#30 高橋はこの表示を知る由もなく夜間帯に2分8秒台の信じられないペースで走行を続ける。214周目のタイム#30 高橋:2分8秒678に対して#1 カレル: 2分11秒671と3秒も速い。

そして残り5分と言う19:25、#30 Team HRCにピット作業レギュレーション違反で40秒加算ペナルティが科せられた。給油作業中は給油スタッフ以外マシンに触れてはならないが、給油が終わらないうちにリアスタンド担当のスタッフがスタンドを降ろしてマシンに触れてしまった。これがレギュレーション違反に問われた。

この時の#30 と#1の差は49.728秒。「急にタイム差が縮まったのでおかしいな、とは思いましたが落ち着いて残りのラップに集中しました」と高橋。#1 カレルも2分9秒台にペースを上げて219周目に48.916秒差まで詰める。しかし追い上げもここまで、19:30、#30 Team HRCが220周と言う最多周回数記録でチェッカー!Team HRC3連覇を飾る。ホンダにとって30回目のメモリアルWIN。高橋巧は6回目の優勝と言う新記録も樹立した。

2位には#1 YART-YAMAHA。意外なことに鈴鹿8耐では初表彰台。3人とも5秒台に入れる速さを持っていたが決勝レースのペースでは#30 Team HRCには軍配が上がった。特に第1スティントはTeam HRC平均ラップタイム2分8秒632(アウトラップを除く:手元集計)に対して2分9秒450(〃)、この差が響いたように思える。記者会見でもニッコロ・カネパは「タイヤ選択ミスでラップタイムが上がらなかった。これがなければ優勝を狙えたと思う」と語っていた。

3位には#12 YOSHIMURA SERT Motul。燃費の良さを活かし7回ピット(ペナルティの1回が誤算であったが)とラストスティントの渥美の魂を込めた激走で3位表彰台をもぎ取った。ピット作業の早さも功奏した。ヨシムラのピット作業は合計で5分33秒188とTeam HRCの5分38秒964より5秒早い。(ペナルティの1回がなければ5分9秒487)。渥美心とダン・リンフットの2人で回すのかと思われたがこの暑さでライダーの体力消耗を考慮してアルベルト・アレナスの投入を決定。アレナスも水曜日に初めて鈴鹿を走ったのにも関わらず2分9秒台でラップする走りで応えた。

4位には#2 DUCATI Team KAGAYAMA。表彰台も見ていただけに悔しさもひとしお。水野涼は走行後に全身が攣るほど体力を消耗し、ハフィス・シャーリンのラストスティントは脱水症状でタイムを上げ切れなかった。

チームはスプリント仕様のワークスマシンをこの短期間で耐久仕様に仕上げて来た。「8時間保つのか?」周囲の声に対して「保たせる、それが我々の使命」と加賀山就臣はパニガーレV4Rの仕上げに奔走する。しかしレースウィークに入ってからトラブルが出てくる。

「クイックチャージャーやタイヤチェンジャーなどイタリア本国から専用パーツを持ち込みました。しかしレースウィークに入ってからそれらにトラブルが出た。本番でトラブルが出ない保証はない、だったら使用しないで従来のパーツで臨むことを決断しました。使えるものが使えない、このもどかしさは例えようがないですが全ては自分の責任です」と自らを責める。しかし、2分5秒2で走れる速さを見せた、トップチームと同様の燃費も出した。これが初参戦のチームだろうか。そうは思えない。加賀山就臣だから、水野涼だから実現できたことだと思う。

サスティナブルアイテムを用いたレース活動としてExperimentalクラスに参戦した「スズキCN(シーエヌ)チャレンジ」。2022年のMotoGP/EWC撤退以来ワークス活動をしてこなかったスズキが、新たなチャレンジとしてワークスチームとして参戦して大きな注目を集めた。濱原颯道、エティエンヌ・マッソンの2名で8時間を走り切り、しかも総合8位と言う快挙を成し遂げた。事前テストから決勝レースまで無転倒というのも特筆すべきことだ。これを機にスズキワークスが復活するのか、期待が高まる。

危険な暑さの中で開催された今年の鈴鹿8耐。熱中症を発症するライダー・スタッフもいた。鈴鹿8耐がスタートした45年前とは気象条件が変わっている。そろそろ本気で開催時期変更を検討すべきではないだろうか。何かが起きてからでは遅いと思う。

2024年第54回鈴鹿8時間耐久ロードレース 決勝結果上位10台は以下の通り。

優勝:#30 Team HRC with 日本郵便
2位:#1 YAMALUBE YART YAMAHA EWC Official Team
3位:#12 YOSHIMURA SERT Motul
4位:#2 DUCATI Team KAGAYAMA
5位:#37 BMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAM
6位:#71 Honda Dream RT桜井ホンダ
7位:#104 TOHO Racing
8位:#0 SUZUKI CN CHALENGE
9位:#73 SDG Team HARC-PRO.Honda
10位:#99 KM99

text:Toshiyuki KOMAI

photo:水谷たかひと