水野涼が強い! 2年連続の最終戦2連勝! 新しいチャンピオンは次世代を担う岡本裕生!

2024/10/28

水野涼(DUCATI Team KAGAYAMA)の有言実行がもうひとつ増えた。今シーズン最後のレースで優勝!2年連続で最終戦2連勝を飾った。同一ポイントで迎えた中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)と岡本裕生(YAMAHA FACTORY RACING TEAM 2)のシリーズチャンピオン争いはSC明けの再スタート直後に中須賀がまさかの転倒で岡本裕生が新生チャンピオンとなった。

懸念された雨にも降られずドライコンディションで16周の決勝レース2が行われた。

岡本がホールショットを奪う。中須賀、野左根航汰(Astemo Honda Dream SI Racing)、水野の順に1コーナーに進入する。6番手を走行していた岩田悟(Team ATJ)がスプーンで転倒、昨日の予選で2分4秒台をマークして決勝での走りが楽しみだっただけに残念。

オープニングラップは岡本が制し、以下中須賀、野左根、水野、高橋巧(日本郵便Honda Dream TP)、長島哲太(DUNLOP Racing Team with YAHAGI)、伊藤和樹(Honda Dream RT桜井ホンダ)、日浦大治朗(Honda Dream RT桜井ホンダ)、名越哲平(SDG Honda Racing)、関口太郎(SANMEI Team TARO PLUSONE)、渥美心(YOSHIMURA SERT Motul)と続く。

3周目の逆バンク、伊藤が長島に接触して転倒を喫する。その長島もスプーンで転倒、最後尾で再スタートする。トップグループ4台:岡本、中須賀、野左根、水野は2分5秒台前半から中盤のラップタイムで5番手以下を引き離す。5周目のホームストレートで水野が野左根をパス、3番手浮上。

岡本が中須賀を離し始める。5周目のホームストレートでは0.3秒だったものがセクター3では0.8秒にまで広がる。「昨日のレース1は予選で3秒出したセットから変更して外しました。だから再度セットを変えて朝フリーに臨んだらフィーリングが良かったのでそのままで走りました。」

「今日は序盤から前に出て引っ張ろうと考えていました。2分5秒中盤のラップタイムで刻んで後続が離れれば勝ちになるし、抜かれた場合はどこで勝負を仕掛けるかを考えていました」と岡本。

中須賀のペースが思うように上がらない。新しい走り方にチャレンジしている最中だがまだ完全にモノにできていない。6周目のラップタイムは6秒フラット。バックストレートで水野に抜かれて3番手にドロップダウン。さらにその後方から野左根に突かれる状態。レース2ではやや柔らかめのタイヤに変更、それでもタイムが伸びない。トップグループ4台が岡本:水野、中須賀:野左根、と二つに別れ出した。

実は水野も序盤のペースアップが鈍かった。「昨日より気温が高くてこちらに有利かと思ってコースインしたのですが序盤に思っていたほどペースが上げられず少し離される形だったのですが落ち着いて1台ずつパスしていきました」

「序盤に4番手、3番手を走っていても焦りはありませんでした。マシンのフィーリングは良いですし、タイヤも硬めをチョイスしていますので後半に勝負をかける自信はありました」。そして水野はトップ岡本の背後に少しずつ近づいていく。

トップ岡本の背後に水野が迫り、その約2秒後方の中須賀と野左根はテール・トゥ・ノーズのバトルを展開していた。と、ここで逆バンクで星野知也と中富伸一が接触転倒。マシン回収とライダー救護のためセーフティカー(SC)が入る。残り7周の10周目。SC投入で岡本が築いたマージンがリセットされる。

残り5周、このままSC先導のままチェッカーとなるのか、SC退去で再スタートが切られるのか、進行を見守る状態が続く。

「正直“終わった”と思いました。後続の4台パックから2台に絞ったのにまた元に戻ってしまう。水野選手と一騎打ちになるだろうと思って、いろいろ戦略を考えながら走っていましたが、このSCで無しになってしまいました」と岡本。

「SCが入るのが遅いですし、残り周回が少なくなる中でリスタートさせる方が危険のような気がしました。最終戦でチャンピオンが決まる大事なレースで岡本選手と逆の立場だったらふざけるな、と思いますね。」と水野。

「こういう言い方は不適切かもしれませんが自分は千載一遇のチャンスだと捉えました。タイヤが冷えた状態からのリスタートには自信がありましたし今シーズン初の表彰台に乗れるチャンスだと思いました。もちろんSCを入れるタイミングには(?)マークですが」と野左根。

SCで2周ほど周回した後に残り3周の超スプリントでリスタートが切られた。最終コーナーをレーシングスピードで駆け下り、ホームストレートを岡本・水野・中須賀・野左根の4ワイドから水野・中須賀・岡本・野左根の順に1コーナーに進入。ここで衝撃的なシーンが映し出される。なんと中須賀がフロントから切れ込んで転倒。

レーシングスピードで走ってこそタイヤの温度が上昇してグリップするのだが、SCの低速走行ではタイヤはどんどん冷えていく。その状態でリスタートすれば氷の上を走るのと同じくらいグリップせず危険を伴う。中須賀はSC明けのスタートダッシュが非常に上手で過去に何度もSC明けのスタートダッシュが勝因となったことがある。その中須賀が転倒した。

「SC明けのリスタートには自信がありました。ここで前に出ないと岡本選手、水野選手に追いつけないと思い、勝負に出ました。結果、フロントからいってしまいました。これもレースです。」

「ST1000のレース後の路面コンディションに合わせきれず、ズルズルと下がってしまいました。その時点でタイヤが結構厳しくて、SC明けのダッシュにチャンスがあるならそこに賭けようと思ったのですが自分の力不足です。自分が招いたミスですのでしっかりと反省して気持ちを切り替えてこれからのことに備えようと思います」

S字の進入でわずかに膨らんだ水野のインから岡本・野左根が前に出て、岡本・野左根・水野の順に逆バンクを通過する。するとNIPPOコーナー上りで野左根が岡本をパスしてトップ浮上!リスタート明けのスタートダッシュには自信があると言っていた野左根の言葉を裏付けるシーンとなる。

しかしストレートスピードが速い水野がバックストレートで2台を一気に抜き去るとクロスラインで野左根がシケインで仕掛ける。水野はレイトブレーキで野左根の懐に飛び込みトップでシケインを立ち上がる。

「SC解除後すぐに東コースで抜かれましたが、ペースが上げにくそうだったのでバックストレートで一気に抜きました。残り3周だったので慌てつつも落ち着いて走ろう、と考えていました」

迎えたファイナルラップ、岡本は諦めていない。ヘアピンの進入で野左根のインを刺す。しかしMCシケイン進入で野左根が抜き返す。バックストレートでスリップから抜けて130Rに進入するが野左根が抑える。そして最後の勝負どころの最終シケイン、僅かに届かず野左根が前。トップチェッカーは水野。最終戦鈴鹿で2年連続の2連勝、今季3勝目を挙げる。

「このウィークに入ってからマシンのフィーリングは良いし、タイヤ選択と言う面でも自信を持ってレースに臨めましたのでそれらが気持ち的余裕に繋がって2連勝できたと思います」

「データを取れた2回目のサーキット(もてぎ・鈴鹿)ではバイクがグンと進化して自分の自信に繋がってレースに挑むことができました。それもこれも鈴鹿8耐で走り込んだことが大きいです。鈴鹿8耐でマシンの理解度が一気に進みました。」

2位は野左根、今季初表彰台を獲得。

「予想通り岡本選手が前に飛び出し、序盤2分5秒中盤のラップタイムで前を追っていたのですが次第に離されてしまいました。中須賀選手の後ろについてキツそうだなと思ってのですが、かと言って自分が前に出るだけの余力はありませんでした。終盤までマネジメントして勝負を仕掛けるつもりで作戦を考えていたのですがSCが入ってしまいました。」

「昨日のレース1も良いところまで行ったのですが4位に終わってしまいました。ですが最後の最後に表彰台に上がれて、何よりチームスタッフみんなが喜んでいたのがすごく嬉しかったです。自分も4年ぶりの表彰台でした。」

「中須賀選手がSC明けに仕掛けたところが凄いと思います。最大のリスクであり最大のチャンスに賭ける勝負師はやはり自分にとってキングであることには変わりありません。」

3位は岡本。これで最高峰クラス初のチャンピオンに輝いた。

チャンピオンが決まっていた岡本、無理する必要はないのだが勝ってチャンピオンを決めたかった。中須賀の転倒はファイナルラップまで知らなかったそうだ。

「最後の1周で中須賀さんの転倒を知りました。ヘアピンで野左根選手に隙があったので抜きましたが野左根選手も意地でインに飛び込んできました。被せることもできましたが、引きました。自分のやることを落ち着いて考えました。自分の気持ちとの戦いでもありました」

今シーズンのレースは全て終わり。あの絶対王者中須賀克行を超えてチャンピオンに輝いたのが弱冠26歳の岡本裕生。水野涼、野左根航汰と言う若手ライダーの台頭が著しいシーズンでもあった。長島哲太がダンロップワークスとして全日本復帰したり、高橋巧の全日本復帰・鈴鹿8耐3連覇と話題に事欠かないシーズンでもあった。これだけのドラマがある全日本ロードレースをもっとたくさんのお客様に見てほしいと思う。

今年「黒船来襲」と銘打ってドゥカティのワークスマシン:パニガーレV4Rで殴り込みをかけてきたDUCATI Team KAGAYAMAの加賀山就臣監督。

史上初:イタリア大使館での参戦体制発表会に始まり、パーツ到着の関係で開幕に間に合うのか?と思われながらも2位表彰台の獲得。そして鈴鹿8耐では表彰台まであと一歩のところまで詰めてきた。

その加賀山監督が土曜日の記者会見をジャックしに来た。

「今日(日曜日も含めると2勝)外国車のドゥカティが勝ちました。ホンダさん、カワサキさん、スズキさん、このままで良いのですか?お膝元である日本で外国車が勝ち続けてしまいますよ、と言いたいです。」

「自分はスズキが嫌で出たわけではなく、この業界をひっくり返したいと言う思いから今年ドゥカティを選びました。もちろん日本車メーカーは尊敬しているし、感謝しています。だからこそ日本車メーカーにはもっともっと活躍して欲しいと思っています。そのためにヒール役ではないけど自分が“日本の活動をさぼってると外国車が勝ち続けますよ”“もっと頑張ってください”“このシチュエーションで悔しくないのですか?”を伝えたいと思っています」

「新しくバイクを作ってくださいとは言ってません。鈴鹿8耐で優勝したTeam HRCのワークスマシン、カワサキさんもヨーロッパであれだけ活躍しているマシンがあるじゃないですか、スズキさんにもCNチャレンジで戦ったワークスマシンがあるじゃないですか。それを持ってきてください。」

「特にホンダさん。飾るために作ったわけではないですよね。レースマシンは走らせてなんぼ。あんなに素晴らしいマシンがあるのですから、ホンダさんに引っ張っていって欲しいです。」

「我々はワークスチームに戦いを挑んで勝ちたいと思っています。だからヤマハさんには感謝しかありません。ヤマハファクトリーに戦いを挑み、日々切磋琢磨して勝てるマシン・チームを作る。強いヤマハがいて今日、ヤマハファクトリーに勝てたことに意味があります。本当にありがとうございます、と伝えたいです。」

「次はホンダさんに勝ちに行く、カワサキさんに勝ちにいく、をやりたいのです。人気が無いから、ではなくて一緒に人気のあるカテゴリーを作っていきましょう。日本メーカーのお膝元で外国車が勝ち続けて良いのですか。日本におけるワークス活動にヒントがあると思っています。それを伝えたかったです」

と加賀山監督の思いの丈を聞いた。

全日本ロードへのワークス参戦は誰もが願っていること。それを自ら悪役になることを覚悟で発信する加賀山監督の覚悟に敬意を表したい。

全日本ロードレース第8戦鈴鹿 決勝レース2 上位10位の結果は以下の通り

優勝:#3 水野 涼 DUCATI Team KAGAYAMA
2位:#32 野左根 航汰 Astemo Honda Dream SI Racing
3位:#2 岡本 裕生 YAMAHA FACTORY RACING TEAM 2
4位:#33 高橋 巧 JAPAN POST HondaDream TP
5位:#13 渥美 心 Yoshimura SERT Motul
6位:#20 日浦 大治朗 Honda Dream RT桜井ホンダ
7位:#4 名越 哲平 SDG Honda Racing
8位:#12 関口 太郎 SANMEI Team TARO PLUSONE
9位:#5 亀井 雄大 TEAM AGRAS with NOJIMA.NFT
10位:#31 佐野 優  KRP SANYOUKOUGYO RSITOH

Photo & text:Toshiyuki KOMAI