水野涼(DUCATI Team KAGAYAMA)が昨年の最終戦から3連勝を飾る!このウィークは水野の一人舞台だったと言っても過言ではないだろう。2年目のドゥカティ、確実に速くなっている。BMWファクトリー仕様の浦本修充(オートレース宇部 Racing Team)が先週シェイクダウンしたばかりのマシンで3位表彰台に昇る快挙。苦戦していた中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)は決勝になるとやはり強い。しっかり2位表彰台を獲得した。
スターティンググリッドに並ぶためのコースイン時に水野にトラブルが降りかかる。クラッチを繋いでもマシンが進まない。急遽ピットボックスに入れて修復を始めたため、サーキットに緊張感が走る。しかし当の水野は意に介さない。ヘルメットを脱いで落ち着いて自分のグリッドに向かって歩き始めた。
“あれ?何故グリッドに向かって歩くの?”。場内は“??”だったのだが「ウォームアップ走行までにグリッドにマシンを並べれば出走可能と言うことを知っていたので全く慌てませんでした」。その言葉通りチームはマシンを押して水野のポールポジションの位置にマシンを停めてスタート進行が始まった。
20周の決勝レースがスタート!ホールショットは水野が奪う。 5番グリッドの長島哲太(DUNLOP Racing Team with YAHAGIロップ)が浦本、中須賀のインをついて2番手で2コーナーを立ち上がると、3コーナー進入で水野をかわしてトップに立つ。長島得意のロケットスタートを決めた。しかし90度コーナーで水野がトップを奪い返しオープニングラップを制する。
2周目の1コーナーでわずかに膨らんだ水野のインに飛び込んだ長島が再びトップを奪う。序盤に強い野左根航汰(Astemo Honda Dream SI Racing)もS字からV字進入で仕掛けて一気に2番手まで浮上するがクロスラインで中須賀、水野にかわされる。そしてヘアピンの進入でフロントから切れ込んで転倒を喫してしまう。「序盤で前に出ようと中須賀選手に仕掛けたのですが転倒してしまいました」
3周目の5コーナー進入で長島を刺してトップを奪うとペースを上げて4周目には1’47.706のファステストラップをマーク。ここから水野の独壇場となる。
「長島選手が来るだろうなとは思ってましたがやっぱり来て、抜き返せましたが少し危なかったので距離を置こうと思っていたら野左根選手にも抜かれて、ここは前に出て引っ張った方が安全だな、と思って前に出ました。そのあとは淡々と自分のペースで走りました」
淡々と、と言っているがそのペースが尋常ではない。4周目に47秒台に入れると9周目まで連続で47秒台でラップ、10周目には2番手の中須賀に対して5.885秒もの差を付ける。
「持ちタイムのアドバンテージは自分にあると思っていたので落ち着いて走れば後続は離れると思いました。10周目以降は48秒台前半に落としてコントロールしました」
セカンドグループは中須賀、浦本、高橋の3台。序盤に見せ場を作った長島はずっと5番手を走行していたが13周目にマシントラブルでリタイヤとなった。
注目は中須賀と浦本のバトル。中須賀の背後にピタリとつけてチャンスを伺う浦本。立ち上がりとストレートの速さで分があるBMWで中須賀をパスした。
「BMWもHRCも速いところはわかっていたのでストレートで抜かれないかと心配はありました。なので後ろにプレッシャーをかける走り方、例えば5コーナーで深いブレーキングをしたり、浅くかけたりして揺さぶりをかけました」と中須賀。
「さらにブレーキ温度的にも厳しいので走り以外にも考えることが多く、頭を使いながらの走行で疲れましたね」
一方の浦本。「中須賀さんを抜けるなら前に出て水野選手について行こうと思ったのですが水野選手との距離が離れてしまったので、中須賀さんと勝負しようと思ったのですが最後に自分のタイヤがタレて中須賀さんはペースが落ちず、そこで離されてしまいました。ちゃんとした勝負を仕掛けられなかったのが不完全燃焼でした」
水野は2位に6秒7もの大差をつけて独走優勝。昨年最終戦鈴鹿から3連勝を飾った。このウィーク、一発のタイムもアベレージもアタマ一つ抜きでていた水野。それがゆとりとなり冷静に対処できた。
「昨年までの自分だったら今日のスタート前のトラブルでは慌てていたと思いますが、全く不安はありませんでした」
「ただ一つレース後に聞いてびっくりしたのですがレースで乗ったバイクがTカーだったと。走り出してから“なんかグリップしないなぁ、コンディションがまた変わったのかな”と思っていました。走る前に知らされなくて良かったです。変に先入観を持って走るところでした。もちろん両方のマシンで走っていたし、個体差くらいの差しかないのですがこのウィークは1号車の方がフィーリングが良かったので」
「今週は落ち着いてレースできたので結果的にこのような強いレースになったのかなと思います。自分は“各セッションで一番でいること”を目指していました。ライバルに対して“今年の水野:ドゥカティは速い”と言うことを見せるのもプレッシャーになると考えているので。今大会は事前テストからそれができたので良かったです」
「今シーズンはチャンピオンを獲る年にしたいので大事な開幕戦をこのような形の優勝で決められたのはシーズンを戦う上でとてもポジティブだと思っています。」
2位は中須賀。「ウィングレッドを付けた状態でのデータが無いので厳しいレースウィークになりました。各セッションの中でメニューをこなせずまとめきれなかったことも響きました。ですがチームは今ある状態の中でベストなマシンの状態で送り出してくれたおかげで2位表彰台と言う結果となったことは良かったと思います」あの負けず嫌いの中須賀が珍しく「今回の水野選手は速い。持ちタイムでは追いつけない。厳しいレースになると思います」と言っていたが、決勝レースでしっかりとまとめてくるところが凄い。
3位は浦本。BMWのデビュー戦でいきなり3位表彰台。「素直に嬉しいです。決勝になれば48秒台のペースになることはわかっていましたがレースディスタンスでそれができたことはチームがマシンを仕上げてくれたことに感謝しています。最後中須賀さんと勝負できなかったことは悔しいですが、先週シェイクダウンをしたこのマシンを時間がない中でここまでよくまとめたなと思っています」
今シーズン台風の目となるであろう浦本+BMWのパッケージ。次戦SUGOでの走りに期待したい。
予選までは順調に進んでいたHRCの高橋巧が今ひとつ伸びなかった。高橋にも何が原因でこうなったのかよくわからないらしい。テストを兼ねての参戦だったのでいろいろ試したのだが今日は攻められる状態ではなかったと悔しさを滲ませていた。
次に高橋の走りが見られるのが鈴鹿8耐と言うのが寂しいがホンダファクトリーのエースとしての走りに期待したい。
全日本ロードレース第1戦MOTEGI 2&4レース 決勝レース 上位10位の結果は以下の通り
優勝:水野 涼 DUCATI Team KAGAYAMA
2位:中須賀 克行 YAMAHA FACTORY RACING TEAM
3位:浦本 修充 オートレース宇部 Racing Team
4位:高橋巧 Honda HRC Test Team
5位:名越 哲平 SDG Team HARC-PRO. Honda
6位:津田拓也 Team SUZUKI CN CHALLENGE
7位:伊藤和輝 Honda Dream RT桜井ホンダ
8位:岩田悟 Team ATJ
9位:関口 太郎 SANMEI Team TARO PLUSONE
10位:児玉 勇太 Team KODAMA
Photo & text:Toshiyuki KOMAI