手島雄介率いる「日本郵便Honda Dream TP」の2023年参戦体制発表があった。場所はメインスポンサーである日本郵便株式会社の新宿郵便局。手島と日本郵便の良好な関係を伺わせる場所で開催された。
昨年までの3台体制から一気に2台増えて5台体制となる。中でも大きな話題は高橋巧の加入だろう。
ワールドスーパーバイク(WSBK)、ブリティッシュ・スーパーバイク(BSB)参戦から4年ぶりに帰国、手島の元でST1000クラスに参戦する。チームメイトは初代ST1000クラスチャンピオン:高橋裕紀。
もう一人、若松怜がJ-GP3クラスに加入。岡崎静夏と2人で臨む。ST600クラスはチームの要:小山知良がチャンピオン奪回を目指す。
モータースポーツを国技化したい
日本郵便Honda Dream TPは2013年に手島雄介が創立、「モータースポーツを国技化したい」という思いで活動を続け今年で10年目を迎える。「社会に貢献すること」を掲げて2018年から日本郵便とパートナーシップを結んでいる。レースの観点から安全運転とはどういうことかを語る「安全講和」を全国の郵便局で展開している。さらに、レーシングライダーが配達員に技術的なアドバイスを行う「技術講習」も開催している。「全国の郵便配達員さんの安全を守るためにレース活動でもできることがある」。それが手島の信念であり、チームスタッフ・ライダーも全員その意識を共有している。
日本郵便株式会社 衣川社長から激励メッセージ
日本郵便株式会社 衣川和秀 代表取締役社長から激励のビデオメッセージが届けられた。ここでも手島と日本郵便との強い信頼関係が伺われる。
「日本郵便Honda Dreamの皆さんはサーキットでは日本郵便の看板を背負い、ベストパフォーマンスを目指して常に全力でレースに挑み、多くの感動や興奮を届けてくれています。サーキットを離れても我々の社員や家族のために交通安全を全国に広める活動に力を入れています。このような活動を長年続けてくださっていることに対し、日本郵便を代表して感謝申し上げます。
いよいよ4月の開幕を迎える2023年シーズンでは新たなメンバーを加え5名のライダー全員が全国各地のレースで大いに活躍していただき、サーキットを盛り上げ、また日本郵便を盛り上げてくれることを期待しております。」
今シーズンのST1000クラスはステップアップ組、JSBからのスイッチ組など有力ライダーがひしめく混戦が予想される。その激戦クラスに“二人の高橋”が参戦する。
ST1000クラス:高橋裕紀 激戦を最後に制してチャンピオン奪回を狙いたい
「日本郵便Honda Dream TPから4シーズン目の参戦を迎えることができたことに感謝しています。今年は強力なチームメイトが加入してきました。二人でチャンピオンを目指すシーズンにしていきたいと思いますので、応援よろしくお願いいたします。」
「今シーズンのST1000クラスは昨年のチャンピオン渡辺一馬選手や國峰啄磨選手、他のカテゴリーからも有力選手がエントリーする激戦になると思います。その中で皆さんが大注目している高橋巧選手がチームメイトとなり、どっちが前に出るのか、お互い絶対に負けられない戦いになると思います。その中で最後は自分が制してチャンピオン奪回を狙いたいと思います。」
チームメイトとライバル関係にあると言うのは、モリワキ時代に清成龍一との関係に似ていると言う。その時は高橋が後輩だったが今回は逆の立場。初代チャンピオンの実力とプライドを持って高橋巧、そして渡辺一馬との勝負に挑む。
ST1000クラス:高橋巧 海外で闘ってきた3年間の成長を見てほしい
「2023年シーズンより日本郵便Honda Dreamに加入させて頂くことになりました。手島監督をはじめチームの皆様、各スポンサーの皆様に、このチームで走る機会をいただき感謝致します。
2年間BSBに参戦していました。BSBもタイヤワンメイク、コンピュータも共通だったのでST1000に近い環境でした。
一昨年、コースを全然知らない中で参戦してすごく苦労はしたのですが、そこで戦い方やJSBは気づかなかったことを勉強しました。3シーズン海外のレースで闘ってきてそれなりのテクニック・フィジカル面は鍛えられてきたと思っています。そんな自分の成長ぶりを見てほしいと思います。出るからにはチャンピオンを目指して戦います。」
「高橋裕紀選手と毎戦ワンツーフィニッシュできるように頑張りたいです。どっちが1位かは問いません。チームとして勝てれば良いと思います。」
高橋巧が参戦することで間違いなくこのクラスのトップ争いは熾烈になるだろう。高橋と手島は古くから交流があり、3〜4年くらい前から日本郵便のワッペンをつけてT・PROファミリーとして走っていた。酒の席で「いつかは一緒に走りたいね!」と話していたそうである。高橋が帰国した際に手島に相談してチーム加入に至った。
イギリスでは「他にすることがなかったので(笑)ひたすらトレーニングをしました」との言葉通り、身体は引き締まり、筋骨隆々である。「開幕までにあと3kg落としたいですね」と、小柄な高橋裕紀を意識したコメント。ワン・ツーならどっちが前でも良いと言っていたが、自分が前、と言う気持ちの表れだろう。表向きはクールだが内に秘めている闘争心は人一倍強い。
ST600クラス:小山知良 今年は予選から飛ばします。セカンドコレクターは卒業
チームの要でありムードメーカーの小山。挨拶の冒頭で「セカンドコレクターの小山知良です」と会場を沸かせた。昨年、一昨年とランキング2位。もう2位は要らないとの思いを込めたコメントだ。
「昨年はバッドラックがたくさんありましてランキング2位と2年連続の2位。セカンドコレクターになっています(笑)。しかし今年は、自分の使命でもある「負けたら終わりではなくレースを辞めたら終わり」を信じて攻め続けるKoyaMAXらしい走りでタイトル奪還を目指して頑張りますので、応援をよろしくお願いします。
「今年は若者に負けず、一発アタックも必死に頑張ります!去年は予選は2列目まで入って決勝は序盤にトップ集団に混じり、その中で自分のベテランの引き出しをいっぱい出しながら周りを抑えて勝てれば良いなと思っていました。しかし今年は予選でフロントローを狙いたいと思います。予選で必死に走る姿も見てほしいです。」
ベテランの引き出しの多さに加え一発の速さも狙っていく今年の走りに注目したい。
J-GP3クラス:岡崎静夏 ワクワクなレースを魅せていきたい
昨年Racing Heroesで1年間追いかけた岡崎静夏(岡崎静夏の新たなる挑戦はこちら)。前半戦はマシンセットに苦しんだが後半からセットを見つけて、さぁ、ここから、と言う矢先に転倒・骨折。本来の力を発揮できずに悔しいシーズンを過ごした。
「今年もこのチームで参戦させていただけると大変嬉しく思っております。昨年、小山知良選手や高橋裕紀選手から教わったことをしっかりと結果に繋げたいと思います。そして応援してくださる皆様にワクワクなレースを見ていただけるよう、全力で優勝を目指して挑戦していきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。」
「今年は若松怜選手が加入しました。自分よりずっと若いですが昨年のランキングは自分より上。正直自分より下の選手が加入したのでは意味が無いと思っていました。若松選手の後ろから付いて行き最後に勝負を仕掛けて抜き去りたいと思っています。」
男子顔負けの負けん気の強さをもつ岡崎。男性に混じって女性が勝負を仕掛ける数少ないロードレースでひたむきに頑張る姿に共感するファンも多い。その岡崎も今年30歳。「若手ばかりのJ-GP3クラスの中で若さに負けないように開幕戦から全力でバトルを仕掛けたい」と言う今シーズンに期待したい。
J-GP3クラス:若松怜 昨年の自分をさらに超えるような走りをしたい
昨シーズンランキング7位の若松怜が新規加入した。小山知良が講師を務めるMFJレースアカデミー出身の16歳。
「今年から日本郵便Honda Dream に新たに加入しました若松怜です。小山知良選手がチャンピオンを獲り、翌年には高橋裕紀選手がST1000クラス初代チャンピオンを獲得、このチームは“チャンピオンチーム”だと思っていました。そのチームに加入できたことを本当に嬉しく思います。
2023年は、昨年の自分をさらに超えるような走りをして、最終的にチャンピオンを目指して頑張っていきます。
「昨年はレース前半にトップ争いに絡めていても後半にペースが落ちて付いていけない展開が多かったので、今年は後半でもしっかりトップ争いをして最後に勝てるレースをしたいと思います。」
小山からも「後半落ちるのは課題だよな」と既に指摘を受けている若松。アカデミーの先生:小山、同クラス先輩の岡崎に囲まれ、吸収しながら成長する若松怜の走りに期待したい。
攻めのシーズン
最後に手島が挨拶。
「弊社にとって創立10年目となる2023年シーズンは一言に『攻』をテーマとして活動して参りたいと思います。人は厳しい環境に置かれるとネガティブになりやすい生き物です。実際にこれまでの10年間も幾度となく自分の弱さと小ささを感じることがありました。それでもそれを乗り越え今日この場に立たせていただいているということは、皆様に支えていただき、生かされているからです。
「最近改めてモータースポーツは人生にいろいろな気づきを与えてくれる素晴らしいスポーツだと実感しております。レースのシーンで例えると、コース上では一人のライダーが戦う中で、ピットで待つスタッフはモニター越しに真剣なまなざしで選手を心の底から応援しています。大きな視点で見れば、社会も誰かを思う気持ちで成り立ち、レースシーンはその象徴のように見えます。
今年は過去最大のエントリー数で挑みます。参戦台数が増えただけでなく、一人一人の選手が応援くださる皆様にとっての“ヒーロー”となれるような活動をシーズンを通して行っていきたい所存です。」
2023年も『One Team』を合言葉にたくさんの笑顔を作っていきましょう!今年も日本郵便HondaDreamを宜しくお願い致します!」
過去最大5台のエントリーで参戦する日本郵便Honda Dream TP。
縮小や撤退の話が多いレースの世界で攻めの姿勢を見せることで取り巻く世界を変えることができれば、と言う願いも込めた手島の決断。今シーズンの日本郵便Honda Dream TPの活躍に注目したい。
Photo & text:Toshiyuki KOMAI